研究課題/領域番号 |
23792406
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
貴田 みゆき 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (80507442)
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キーワード | 口腔遺伝性疾患 / 遺伝子解析 |
研究概要 |
昨年度関連施設で父と子に発症した口腔遺伝性疾患を疑う新たな家系を検出した。発端者の患児は永久歯32本中22本欠損、発端者の父は永久歯32本中19本欠損が確認された。2001年出版のオックスフォード出版の頭頸部疾患に関する教科書には第三大臼歯を除く永久歯1~6歯欠損をHypodontia、6歯以上にわたる欠損をOligodontiaと定義し「6歯以上の欠損が認められた場合、遺伝学的なバックグラウンドがある可能性が強い」と記載されている。このことより本検出症例は遺伝性の多数歯欠損症である可能性が強く疑われたため、発端者並びに保護者へのインフォームドコンセントの後遺伝子解析を行った。 歯数調整遺伝子として現在まで14番染色体上PAX9と4番染色体上MSX1の解析が世界的にすすめられているが、小臼歯部が主たる欠損部位である場合MSX1解析を行い、大臼歯部が主たる欠損部位である場合PAX9解析が行われている。本検出症例では、欠損の部位が小臼歯・大臼歯双方のみならず前歯部にもわたり重度の遺伝性を疑う多数歯欠損症例である。本症例に対しPAX9/MSX1双方の遺伝子解析を行った。その結果、PAX9/MSX1遺伝子上に病因変異は特定されなかったものの興味深い一塩基多型(SNPs)を検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関連施設で検出された父と子に発症した遺伝性多数歯欠損症を疑う一家系に対しインフォームドコンセントの後遺伝子解析を行った。本症例は歯の欠損様式が多岐にわたることから、PAX9/MSX1を解析対象遺伝子とした。その結果、PAX9/MSX1遺伝子上に病因変異は特定されなかったものの興味深い一塩基多型(SNPs)を検出した。 非発症者である発端者の母のMSX1遺伝子Exon1のにGCA(Ala34)→GGA(Gly)、Stopコドンの後6番目に一塩基置換(C→T)を検出した。左記変化は口蓋裂症例患者で優位に検出される変化であると過去に報告があった。PAX9遺伝子上では発症者に共通してExon2をはさむIntronに-41A→G/+41G→A、さらにExon3に239CAC(His)→CAT(His)のサイレント変異を検出した。この変異は多数歯欠損症例に共通した一塩基多型SNPsととして、発症との関連を考察している。最近の研究から歯胚発生期にPAX9とMSX1は分子レベルでPaired domeinを介し、相互にその発現を調整していることが判ってきた。本SNPsもその相互機序解明に向けた一躍を担えるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝性多数歯欠損症例では同一家系内でもその欠損様式・欠損歯数が多岐にわたり、他の歯数調整遺伝子が関与している可能性も否めない。最近の報告ではWntシグナル経路に関与するとされる17番染色体上のAXIN2の遺伝子変異がOligodontia発症に関与するとの指摘もあり、現在までMSX1/PAX9に病因遺伝子が同定されていない症例に対して早急な解析を計画している。また、多数の遺伝性非症候性多数歯欠損症例を解析するなかで、発症者に共通した興味深い一塩基多型が検出されており、発症との関連も追求していきたい。今後新たに多数歯欠損原因候補遺伝子として想定されたものに関しても、順次解析用シークエンスプライマーを設計・購入し、遺伝子診断に至っていない症例に対しても遺伝子解析を行っていく。遺伝性非症候性多数歯欠損症に対する遺伝子解析を重ね、原因遺伝子と臨床所見との関連を整理することで、原因遺伝子に基づいた多数歯欠損の新たな分類の構成が可能であり、より迅速な解析対象遺伝子の選択が可能となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23~24年度に非症候性多数は欠損症例の責任候補遺伝子である14番染色体上PAX9および4番染色体 上MSX1の解析を行った。昨年度も新たに遺伝性の非症候性多数歯欠損症を疑う症例を検出し、左記遺伝子解析を行った。しかしながらいずれの遺伝子にも病因となる変異が確認されなかった。 最近になって非症候性多数歯欠損症例の責任候補遺伝子としてWntシグナル経路に関与するとされる17番染色体上AXIN2遺伝子変異が報告されたため、新たに左記症例に対してもAXIN2遺伝子の解析を行うこととした。未使用額はAINX2遺伝子解析の為のプライマー設計および購入ならびに遺伝子解析経費に充てることとしたい。
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