【目的】アペール症候群(AS)は、頭蓋冠冠状縫合部の早期癒合と中顔面部の劣成長に起因する不正咬合、四肢の合指症を主徴とする先天性骨系統疾患である。原因遺伝子として線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)2におけるアミノ酸置換(S252WまたはP253R)が知られているが、詳細な病態成立機序は不明である。当分野では可溶型FGFR2(sFGFR2)の骨芽細胞分化に対する抑制効果を報告してきた。本研究は、Apert型変異(S252W)sFGFR2タンパク質(sFGFR2Ap)を精製し、ASモデルマウス(ASマウス)の頭蓋冠縫合部早期癒合症発症に対する作用を検討することを目的とした。【試料および方法】COS-7細胞にsFGFR2S252W-FLAG発現ベクターを導入して得られた培養上清よりsFGFR2Apタンパク質の精製を行った。組織へのタンパク質輸送担体として、疎水化多糖のナノサイズゲル微粒子(ナノゲル)を用い、sFGFR2Apタンパク質との複合体を作製した。胎生15.5日齢ASマウス(n=4)より頭蓋冠を摘出し、冠状縫合の片側にはナノゲル単体を、反対側にはsFGFR2Ap-ナノゲル複合体を適用し、4日間の組織培養後、HE染色法により縫合部の組織学的解析を行った。【結果および考察】冠状縫合部のHE染色組織像から、ナノゲル単体作用側では縫合部の癒合が観察され(n=4/4)、sFGFR2Ap-ナノゲル複合体作用側では縫合部の開存が認められた(n=4/4)。【結論】精製sFGFR2Apタンパク質の縫合部早期癒合に対する予防効果が示され、AS病態解明および新規治療法開発の一助となる可能性が示唆された。
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