咀嚼運動の中枢制御に関しては、動物実験にて数多く報告されているが、ヒト咀嚼運動制御における高次中枢の役割は、未だ不明な点が多い。そこで本研究の目的は、歯(歯根膜)からの感覚情報が咀嚼運動中のヒト大脳皮質に与える影響を、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging: fMRI)を用いて解明することである。 咬合力依存性の大脳皮質賦活部位の検索 運動の中枢制御を調べるためには、運動条件を規定することが必須であるが、咀嚼運動制御に関するfMRI研究においては、特殊なMR環境下に制限され、脳機能と咀嚼筋活動の同時測定を行った研究は皆無であった。同時計測が達成された場合、咀嚼筋活動の条件規定が可能となるため、変動するパラメータを減らし、結果の解釈において主観的要素の介入を防げるという意義がある。そこで、咀嚼運動中のfMRI-筋電図同時測定し、研究成果として、筋電図とfMRIのデータに生じるアーティファクトの除去を行い、信頼できるデータ採得が可能となった。また、咬む力の定量化、つまり脳機能活動測定中の咀嚼筋活動の条件規定が可能となった。 咬合が四肢筋力に与える影響の同定 臨床応用できる研究計画として、咬みしめの有無により握力発揮時の脳活動が変化するかを検討した。咬みしめが四肢筋力に与える影響に関して、関与する上位中枢の部位は未だ不明である。この研究は、咬合が果たす役割が口腔領域のみならず全身機能へ与える影響を解明できる意義がある。研究成果は、咬みしめと握りしめ同時施行時では、咬みしめ単独や握りしめ単独施行時と比較し、脳賦活強度が有意に大きくなる脳部位が存在するという結果が得られ、咬みしめが握力発揮時の上肢筋促通に関与している可能性が示唆された。研究期間中、2件の国内学会(うち1件にて最優秀発表賞を受賞)、1件の国際学会の発表を行った。また平成26年度、神経科学専門誌に論文が掲載された。
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