研究課題/領域番号 |
23792432
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
泰江 章博 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (80380046)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Smad3リン酸化抑制 / 瘢痕形成抑制 / 創傷治癒促進 / SIS3 |
研究概要 |
口唇裂・口蓋裂患者における裂隙閉鎖術後の瘢痕組織はその強い瘢痕鈎縮により、上顎骨劣成長や上顎歯列弓狭窄をもたらし、その結果患者は重篤な不正咬合を呈する。本研究は、TGF-βのシグナル伝達因子であるSmad3ノックアウトマウスの所見を手掛かりに、Smad3リン酸化抑制剤(SIS3:Specific Inhibitor of Smad3)を用いることで、創傷治癒促進ならびに瘢痕形成抑制法を開発する薬剤試験である。 新生野生型マウス由来の上皮細胞と線維芽細胞の初代培養をそれぞれ行い、SIS3存在下とSIS3非存在下における上皮細胞の遊走能抑制ならびに線維芽細胞における炎症関連因子であるTGF-β1、MCP-1、MIP1α発現をTGF-β1存在下で検討した。結果、上皮細胞の遊走能はSIS3存在下において著しく亢進し、このことよりSmad3リン酸化抑制による上皮細胞の創傷治癒促進能が示唆された。また、線維芽細胞におけるTGF-β1、MCP-1、MIP1α発現はSIS3存在下でともに有意に減少し、コラーゲンゲルを用いた線維芽細胞の3次元培養では、TGF-β1存在下でのゲル収縮率がSIS3添加群で有意に減少した上に、α-SMAの発現も減少していた。これよりSIS3によるSmad3リン酸化抑制における炎症性細胞浸潤の減少の要因がin vitroにおいて確認された。また線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化抑制と、それに続く瘢痕組織形成抑制効果が示唆された。 一方、創傷治癒促進・瘢痕形成抑制のための薬剤として、野生型マウス口蓋創傷部への局所投与を行ったところ、非添加群と比較し速やかな創傷閉鎖を認めた。現在、創傷治癒過程における瘢痕形成メカニズムに関わる分子の免疫組織化学的な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、Smad3リン酸化抑制剤(SIS3)の創傷治癒促進・瘢痕形成抑制効果をin vitroならびにin vivoで分子レベルで解明することが目的である。 まず新生野生型由来の上皮細胞と線維芽細胞の初代培養を用いたin vitroの系でSIS3投与時に、Smad3ノックアウトマウス由来細胞と類似の所見が得られるかの確認を行い、以下のことが達成された。すなわち、上皮細胞の遊走能はSIS3投与群で有意に亢進し、このことよりSmad3リン酸化抑制による上皮細胞の創傷治癒促進能が示唆された。一方、線維芽細胞におけるTGF-β1、MCP-1、MIP1α発現は、SIS3存在下で有意に減少し、またコラーゲンゲルを用いた線維芽細胞の3次元培養では、ゲル収縮率がSIS3添加群で有意に減少した。さらにα-SMAの発現も非添加群と比較し減少していた。これらのことからSIS3によるSmad3リン酸化抑制能ならびに炎症性細胞浸潤の減少がin vitroにおいて確認され、また線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化抑制能と、それに続く瘢痕組織形成抑制効果をもたらすことも示唆された。 マウス口蓋創傷部におけるin vivoでの検討においても創傷閉鎖促進効果が認められており、当初の予定通りに進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、口蓋粘膜創傷部位の治癒促進・瘢痕形成抑制を目的とした薬剤の試験で、臨床応用を見据えたものである。そのため、これまでの結果を踏まえマウス口蓋創傷での薬効、さらには皮膚など他組織への効果を確認する。 具体的には、口蓋創傷部位へのSIS3添加・非添加マウス間における上顎歯列弓長径ならびに幅径の比較を行う。3週齢マウスの口蓋に創傷を作製後、SIS3を麻酔下にて1日1回、1週間塗布する。その後、8週齢にて上顎歯列弓長径・幅径を測定することで、口唇裂・口蓋裂患者に生じる上顎裂成長の抑制効果を確認・検討する。また、口蓋のみならず、皮膚創傷においてもSIS3を塗布することで、その効果を形態学的・免疫組織化学的手法により比較・検討する。方法としては、皮膚ならびに口蓋に創傷を作製したマウスの組織切片を作製し、その治癒過程について経時的にH&E染色を行うとともに、筋線維芽細胞の分化マーカーであるα-SMAの免疫染色、ならびにTGF-β1、MCP-1、MIP-1αなどノックアウトマウスで発現低下の見られる炎症関連因子などの免疫染色を行う。 その後、実験データの解析・統合、ならびに研究成果発表のための学術論文への投稿準備を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本実験で計画しているα-SMA、TGF-β1、MCP-1、MIP-1αなどの発現量変化をreal-time PCR法にて定量するためには、TaKaRa社製SYBR greenが必要不可欠である。 また、同分子の免疫組織学的検出にそれぞれの抗体を必要とする。 一方、SIS3はSmad3リン酸化抑制剤のため、リン酸化タンパクの検出が必要であるが、それには高感度なブロッティングシステムが有利である。Invitrogen社製(iBlot ゲルトランスファーデバイス・IB1001)はセミドライ式以上の非常に感度の高い検出を可能としている。このため、本研究で観察の必要なウエスタンブロッティングに最適である。さらに転写時間も数時間かかるウェット式と比較しわずか7分のため、実験効率の上昇にも寄与する。当教室はドライ式システムを有する装置を所有していないため本装置を備品として購入することは必要不可欠かつ妥当である。 その他、使用すべきマウスを購入する。
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