口唇裂・口蓋裂患者における裂隙閉鎖術後の瘢痕組織はその強い瘢痕鈎縮により、上顎骨劣成長や上顎歯列弓狭窄をもたらし、その結果患者は重篤な不正咬合を呈する。本研究は、TGF-βのシグナル伝達因子であるSmad3ノックアウトマウスの所見を手掛かりに、Smad3リン酸化抑制剤(SIS3:Specific Inhibitor of Smad3)を用いることで、創傷治癒促進ならびに瘢痕形成抑制法を開発する薬剤試験である。 新生野生型マウス由来の上皮細胞と線維芽細胞の初代培養をそれぞれ行い、SIS3存在下とSIS3非存在下における上皮細胞の遊走能抑制ならびに線維芽細胞における炎症関連因子であるTGF-β1、MCP-1、MIP1α発現をTGF-β1存在下で検討した。結果、上皮細胞の遊走能はSIS3存在下においてやや亢進し、このことよりSmad3リン酸化抑制による上皮細胞の創傷治癒促進能が示唆された。また、線維芽細胞におけるTGF-β1、MCP-1、MIP1α発現はSIS3存在下でともに有意に減少し、コラーゲンゲルを用いた線維芽細胞の3次元培養では、TGF-β1存在下でのゲル収縮率がSIS3添加群で有意に減少した上に、α-SMAの発現も減少していた。これよりSIS3によるSmad3リン酸化抑制における炎症性細胞浸潤の減少の要因がin vitroにおいて確認された。また線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化抑制と、それに続く瘢痕組織形成抑制効果が示唆された。 一方、創傷治癒促進・瘢痕形成抑制のための薬剤として、野生型マウス口蓋創傷部への局所投与を行ったところ、非添加群と比較し速やかな創傷閉鎖を認め、さらに皮膚においても同様の結果が得られた。
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