本研究は下顎角の大きさを規定する遺伝子が存在する染色体領域について検討し,さらにコンソミックマウスを用いて,その染色体が下顎角の大きさにどのような影響を与えているかを明確にすることを目的として行った。まず下顎角の大きさが異なる2系統の近交系マウスを交配しF1マウスを得て,さらにF1マウス同士を交配させ,F2マウスを得た。これらマウスの下顎骨を3か月齢にて摘出し下顎角の大きさを測定した結果,85~99度に分布した。またこれらマウスのDNAを抽出し,第1~19番染色体それぞれにB6,C3H系統間で多型のあるDNAマーカーを設定し,PCR-電気泳動法にて各F2マウスの遺伝子型を分析したところ,D13Mit76の近傍に下顎角の大きさを規定する遺伝子の存在する可能性が示唆された。次にB6-Chr13MSMコンソミックマウスの下顎角の大きさを3か月齢にて測定した結果,B6系統よりも小さかったことから,13番染色体が下顎角の大きさの規定に関わっている可能性が示唆された。一部研究計画を変更し環境要因が下顎角に与える影響について検討するため,wistar系ラットの上顎臼歯を5週齢で抜歯し粉末飼料にて飼育し,マイクロCTを用いて、経時的に下顎角の大きさを計測した。抜歯群,コントロール群ともに5~20週齢にかけ徐々に小さくなり,抜歯群は7~20週齢までコントロール群よりも有意に大きかった。TRI/3D-BONで解析したところ,下顎骨の体積,骨塩量,骨密度,骨の厚さ,すべてにおいて抜歯群は有意に低値を示した。またこのラットの下顎骨で非脱灰薄切標本を作製し骨形態計測を行ったところ,下顎頭の軟骨細胞の配列のみだれや静止,増殖,肥大細胞の比率の変化が認められた。 下顎角の大きさと遺伝・環境要因との関連性が少しずつ解明されており,臨床においても顎顔面領域の成長予測に応用することが期待され意義があると考える。
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