研究概要 |
慢性歯周炎は歯周病原性細菌Porphyromonas gingivalis (P. g)を中心とした感染症であり、慢性炎症による歯周組織の破壊が歯を喪失する主要な原因であるが、歯周炎が慢性化に至るメカニズムは不明な点が多い。 上皮細胞内に侵入した病原体の排除は、抗原提示細胞である樹状細胞 (dendritic cell, DC)によるMHCクラスIを介した細胞傷害性CD8+ T細胞(cytotoxic T lymphocyte, CTL)の誘導 (クロスプライミング)が必要である。慢性歯周炎患者の歯周組織には、多くのCD8+T細胞の浸潤が観察され成熟化したDCが歯肉粘膜固有層に遊走することから、P. gに対するクロスプライミング誘導メカニズムが存在する可能性が示唆される。本研究では、P. gによるDCを介したCTL誘導 (クロスプライミング)機構について検討した。C57BL/6野生型マウスにP. g加熱死菌全菌体を投与し、その12時間後における脾臓DC上の共刺激分子CD86発現について測定した。その結果、P. gの投与によりDCのCD86発現は亢進されることが示された。さらに、in vitroにおいて骨髄細胞由来DC (BMDC)をP. gで12時間刺激すると、CD86発現は著明に亢進された。次に、P. gによるDCにおけるクロスプレゼンテーション誘導作用について検討した。その結果、BMDCをP. gで刺激すると、クロスプレゼンテーション誘導が増強された。他方、感染した上皮細胞から放出されるIL-33は、CTLの分化誘導を促進させることが明らかにされている。そこで、ヒト歯肉上皮細胞をP. gで刺激した結果、IL-33 mRNA発現が著明に亢進されることを見出した。これらの免疫応答は合目的的にP. gによる慢性炎症の原因になることが想定され、今後の検討課題といえる。
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