本研究の実験目的は①歯周病原菌の感染によって浸潤した好中球から放出される好中球エラスターゼが歯根膜細胞に及ぼす影響を調べる②好中球エラスターゼ阻害剤であるシベレスタットの歯根膜細胞への影響を調べる③慢性歯周病モデルにおける好中球エラスターゼの作用と阻害剤の効果を調べ、好中球エラスターゼ阻害剤に着目した歯周病治療薬として臨床応用できる可能性を検討することである。 これらの実験目的の①、③は平成23年度に実験を進めたので、今回は②について実験を行った。さらに③の実験は前年度に慢性歯周病モデルの確立をするにとどまっていたので、本年度では③についても追加して実験を行った。 ②のIn Vitro実験に関しては、好中球エラスターゼ阻害剤であるシベレスタットが歯根膜細胞に及ぼす細胞増殖活性について調べた結果、シベレスタット0.1~1.0mg/mLの低濃度で細胞増殖活性に変化は認められなかったが、3.0mg/mL以上では、歯根膜細胞の増殖活性は低下した。この結果から歯根膜の増殖に影響を示さないシベレスタットの濃度は1.0mg/mL以下である事が分かった。また、好中球エラスターゼとその阻害剤であるシベレスタットが歯根膜細胞の石灰化に影響を及ぼすかどうかについて、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性を調べて評価した。その結果、これらは歯根膜細胞において石灰化に影響を及ぼさないことが示唆された。 ③のラットを用いたIn Vivo実験については前年度に確立させた慢性歯周病モデルにシベレスタットを投与して、歯周病に罹患した歯周組織に対する影響を調べた結果、シベレスタット投与群では歯根膜の線維間基質の分解が抑制されていた。 好中球エラスターゼの阻害剤が歯周病において、歯槽骨吸収を起こす引き金となる歯根膜組織の線維間組織の破壊抑制に効果を示す可能性が本実験から示唆された。
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