唾液や食物由来の硝酸塩が口腔内細菌により還元され亜硝酸塩となり、Streptococcus mutans (Sm)やヒトプラークの酸産生を抑制することが報告されてきた。しかし、その抑制機構は不明であった。そこで本研究で我々が確立した細菌メタボローム解析法を用いて、プラークの酸産生に対する亜硝酸の抑制機構についても検討した。本実験は安全性の観点から、まずは培養したStreptococcus mutansを用いて、in vitroでの検証を行った。 菌懸濁液を調整後、10 mM glucose及び10 mM亜硝酸カリウムを添加し、10分間37℃でインキュベートし、最終pHを測定した。またインキュベート前後の菌体内及び上清成分を通法に従って抽出し、糖代謝経路(解糖系、リン酸五炭糖経路、クエン酸回路)の代謝中間体・代謝産物及びアミノ酸を主対象として、CE-TOFMSによるメタボローム解析を行った。その結果、亜硝酸塩の添加により、10分間のpH低下が有意に抑制され、乳酸産生量も約30%減少した。また、解糖系中間体では、グルコース6リン酸の蓄積、ホスホエノールピルビン酸と3-ホスホグリセリン酸の減少が観察され、糖は取込まれるが、複数の解糖系酵素の阻害により、酸産生が抑制されることが示唆された。また、リン酸五炭糖経路の一部の代謝中間体の増加やアセチルCoAの顕著な減少、各種アミノ酸の増減なども観察され、食物由来の亜硝酸がプラーク内細菌の代謝に様々な形で影響している可能性が示唆された。
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