研究課題/領域番号 |
23792504
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岩崎 正則 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (80584614)
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キーワード | 慢性腎臓病 / 歯周病 / 炎症 / 疫学 |
研究概要 |
日本の成人人口における慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)患者数は約1,330万人(12.9%)と推定され,CKDは日本人の健康を脅かす重要な疾患群である。CKDの予防には関連する危険因子に対する対策が重要であるが,これまでの研究から歯周病がCKDの危険因子となりうる可能性が示唆されている。これらの報告は主にアメリカでの調査研究結果を基にしたものが主であり,日本人を対象とした調査研究による報告はない。本研究は血漿抗体価測定を用い,歯周病原細菌感染度と腎機能の関連を調査することにより,歯周病がCKDに与える影響を解明することを目的とした。 2007年の調査に参加した79歳高齢者215名を本研究対象とした。歯周病原細菌,Porphyromonas gingivalisに対する血漿抗体価測定を行った。血漿抗体価上位25%を抗体価上昇者と定義し,説明変数とした。また糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)が60mL/分/1.73m2以下の者をCKD有病者と定義し,目的変数とした。ロジスティック回帰分析の結果,血清抗体価上昇者はCKDのオッズ比が有意に高かった(調整済オッズ比=2.59,95%信頼区間=1.05-6.34)。 本解析結果は日本人高齢者を対象とした歯周病原細菌感染度と腎機能の関連をみた初の調査結果であり,この結果は日本人高齢者においても歯周病がCKDの潜在的なリスクファクターの一つである可能性を示している(J Dent Res. 2012; 91: 828-833)。さらに本研究の結果は歯周病治療がCKDおよびその合併症の予防・治療に効果がある可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究から歯周病がCKDの危険因子となりうる可能性が示唆されている。Fisherらは歯周病患者が健康な者に比べ,CKDの罹患率が1.6~1.9倍高いことを報告した(Am J Kidney Dis. 2008;51:45-52)。また我々は米国での調査から2型糖尿病患者でさらに歯周病に罹患している者はCKDを含めた糖尿病合併症のリスクが有意に高いことを報告した(NIDCR Study Progress Report Summary [5R03DE017162 – 02]. 2009)。しかし,これら研究の全体としての数は未だ少なく,また研究対象に日本人を含むアジア系はほとんど含まれていないため日本人を対象とした調査研究を行う必要があると考えられた。我々は昨年度に日本人高齢者におけるCKDと歯周病の関連を評価し,本人高齢者においても歯周病がCKDの潜在的なリスクファクターの一つである可能性を日本で初めて報告した(Am J Kidney Dis. 2012;59:202-209)。さらに本年度は歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis感染度と腎機能の関連をみた初の調査結果を報告した(J Dent Res. 2012; 91: 828-833)。 Porphyromonas gingivalis以外の歯周病原細菌感染度を用いた調査解析を次年度に開始する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度前期は新潟県上越市にて行われる総合健診に参加しデータ収集を行う。研究期間を通じての総数は約300名を予定する。本研究計画の主旨を理解し,かつ臨床検体の供与に同意された被験者に対して同意書に署名を得た後,静脈血を採取し,血漿資料を調整する。歯周病原細菌は,Aggregatibacter actinomycetemcomitans ATCC29523,Eikenella corrodens FDC1073,Porphyromonas gingivalis FDC381,Prevotella intermedia ATCC25611の4菌種を標的とする。なお,抗原蛋白の調整及び抗体価の測定は外注して行う予定である。また,同時に口腔内診査,質問紙調査,血液検査を行い必要なデータを得る。測定を予定する項目は口腔内診査項目(現在歯数),質問紙調査項目(年齢,性別,喫煙状況,服薬状況,既往歴,現病歴,他,社会的因子),および血液検査項目(クレアチニン,中性脂肪,総コレステロール,HDL-コレステロール,ヘモグロビンA1c)である。必要人数が集まらない場合には新潟県内の市町村行政および医療機関に協力を依頼し,新たな調査対象を確保する。その場合には研究協力者と綿密に連携をとり,必要な援助を得る。 データの整理,解析,および研究結果の発表は2013年度後期を予定している。なおデータの解析においてはThe University of California, San Francisco, School of Dentistry教授George W. Taylorと連携をとって行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究における生化学検査については検体検査を外注予定であり, ・歯周病原細菌に対する血漿抗体価測定費用として\6,500/人 ・その他の血清指標(クレアチニン,中性脂肪,総コレステロール,HDL-コレステロール,ヘモグロビンA1c)測定費用として\1,100/人 計\7,600/人となる。よって2013年度に\380,000(50人分)を予算計上している。 また調査結果の発表,学会参加費用として\350,000を予算計上している。さらに調査で得たデータの収集・解析に必要なパソコンソフトの導入に係る経費\205,000を研究費使用計画に加えている(製品名:Stata/MP 11-2-CPU)。
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