齲蝕の主な原因菌であるStreptococcus mutansが口腔内にそれほど存在していないにもかかわらず、齲蝕を発症する児童に遭遇することがある。こうした児童では、S. mutansが菌数的には問題ないレベルにあるが、存在するS. mutans株が特に齲蝕を誘発する能力の高い菌株である可能性がある。 本研究では、S. mutansの齲蝕原性の1つである非水溶性グルカン合成能に注目し、小学生の口腔内から分離したS. mutans、72株について、非水溶性グルカン合成酵素をコードするgtfB遺伝子の塩基配列を決定した。gtfB遺伝子配列中、3'末端には3.5回の直列反復からなるglucan-binding domainをコードする領域が存在しており、この酵素がグルカンを合成する上で重要な領域とされている。菌株間でこの部位の変異とグルカン合成能との関連性を検討したところ、65aaの反復単位中、33番目のGlyをSerに置換する変異を持ったS. mutans株(p.G33S株)で、非水溶性グルカン合成能が有意に増加していた(p=0.002)。また99名の小学生のうち、S. mutansを口腔内に保有している児童(84名)について、保有するS. mutans株におけるこの部位の変位と児童の1年後の齲蝕増加歯数(dDFT)との関連性を調べた所、特にフッ化物洗口を行っている児童(35名)で、p.G33S株を保有している児童(7名)のdDFTが0.86±1.46であったのに対し、p.G33S株以外のS. mutansを保有する児童のdDFTは0.00±0.00と、有意差を認めた(p=0.005)。このことから、特にフッ化物洗口を行っている児童において、保有しているS. mutansがp.G33S株かどうか調べることの有効性が示唆された。また本研究においては、この変異の有無を検出するためのPCRプライマーを設計した。
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