本研究は咀嚼による嚥下の制御機構を明らかにすることを目的とし、23年度は皮質咀嚼野刺激による嚥下反射の変調効果を検証した。7週齢のSD系雄性ラットの左側咬筋・顎二腹筋および甲状舌骨筋に係留したワイヤー電極より筋活動電位を導出し、上喉頭神経および皮質咀嚼野(A-またはP-area)の連続電気刺激により嚥下反射と咀嚼様顎運動をそれぞれ誘発した。嚥下回数、刺激開始から初回および初回から2回目までの嚥下潜時を計測するにより、嚥下反射に対する皮質咀嚼野刺激の効果を検証した。さらに、木片を作業側の上下大臼歯間に留置して咀嚼様顎運動時の末梢入力を増やすことにより、嚥下反射における皮質咀嚼野刺激の効果が変調するか否かを検討した。その結果、同側または反対側A-area刺激時の嚥下回数は対照群(刺激無)と比較して有意に少なく、初回から2回目までの嚥下潜時は有意に延長した。一方、P-area刺激時はその変調効果は明らかではなかった。また木片咀嚼による嚥下反射の変調効果はA-およびP-areaいずれにおいても明らかではなかった。以上の結果から、A-areaの活性化により誘発された咀嚼様顎運動中に嚥下反射が抑制されていることが示され、A-およびP-areaは嚥下反射に対して機能的差異があることが推察された。また、歯根膜入力を含む口腔感覚を増加させてもA-areaにより誘発された嚥下抑制に変調が確認されなかったことから、その抑制は中枢性に制御されている可能性が高いと考えられた。今後は非動化動物を用いた電気生理学的実験により、この抑制がいかなるメカニズムで中枢性に制御されているかを明らかにする予定である。
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