本研究の目的は,ラット歯周病モデルを用いて,トレハロースを歯周組織に直接塗布することによって与えられる影響を組織学的・分子生物学的に検証することである。 平成23年度では,実験的に炎症を惹起させたラット歯周組織に対して蒸留水及びトレハロース水溶液を塗布し,組織学的変化及び遺伝子発現の変化について比較検討した。その結果,トレハロースは歯周組織においてTLR4を介したRANKL発現を抑制することにより破骨細胞分化を抑制することが示唆された。 平成24年度では,歯肉からタンパクを抽出し,ウェスタンブロット法によりRANKL発現経路に関連するタンパクの発現量を分析した。その結果,TLR4及びそのアダプター分子であるMyD88のタンパク発現がトレハロース塗布により抑制されていた。また,RANKL発現経路に関連するタンパクであるPKC,ERKの活性化(リン酸化)についても,トレハロース塗布により抑制されていた。次に,リン酸化ERKの局在を確認するため免疫染色を行ったところ,蒸留水を塗布した群において歯槽骨表面にリン酸化ERK陽性細胞が多く認められたが,トレハロースを塗布した群ではその数は少ない傾向にあった。さらに,トレハロースがリポポリサッカライド自体に影響を与えていないか調べるため,その構成要素であるリピドAの免疫染色を行った。その結果,トレハロースの有無によらず,実験的歯周炎を惹起させたラットの歯肉溝上皮直下においてリピドAの発現が認められた。以上のことから,トレハロース塗布による歯周組織における破骨細胞分化抑制の機序として,TLR4の発現抑制及びその下位に存在するMyD88,PKC,ERKを介したRANKL産生経路の活性化抑制が関与していることが示唆された。
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