研究課題/領域番号 |
23792515
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
後藤 優樹 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 助教 (30507455)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 粘膜免疫 |
研究概要 |
経鼻免疫法による分泌液中への抗体産生を調べたところ、TNP-KLHで免疫されたマウスの鼻腔洗浄液、および唾液中のTNP特異的IgAとIgG抗体のレベルはPC-KLH免疫されたマウスのPC特異的抗体よりも高い傾向が認められた。対照的にPC免疫されたマウスの鼻腔洗浄液中のIgM抗体のレベルはTNP免疫されたマウスのそれよりも高い値を示した。一方、全身性の免疫応答については、血清中の抗原特異的抗体を測定することにより調べた。PC-KLHの免疫により抗原特異的抗体レベルの増加の程度はTNP-KLHを免疫したときよりも大きくなる傾向が見られ、特にIgM抗体でその傾向は顕著であった。マウスはTNPと同程度のPCに対する応答性を持っていることが示された。PCは自己細胞や環境中に常在する物質であり、ワクチン接種前の何らかの自然感作の可能性を想定していたが、以上の結果はSPFとはいえ無菌・無抗原状態ではない正常マウスがPCに対する免疫記憶あるいは免疫寛容のいずれの感作も受けていないことを示唆している。 ヒトの体液中のPC特異的抗体を測定するためにPC-BSA共有結合物を固相化抗原とするELISA法を試みたところ、キャリアタンパクであるBSAに対する抗体を少なからぬ割合のヒトがかなりの程度の濃度で保有することが明らかになった。そこでPC-BSAを固相化抗原とする測定系と同時に並行してBSAのみを固相化抗原とする測定を行い、抗PC-BSA活性から抗BSA活性を減算することによってPC特異的な抗体活性を測定することが可能となった。これにより各試料中の抗PC-IgA、IgGおよびIgM抗体価測定のための、ヒトのPC特異的抗体のELISA測定系を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔内に生息するPC抗原陽性細菌の粘膜感作を想定し、抗原決定基 (ハプテン:TNPやPC) とLPS、CTなどのアジュバント性物質が別の分子から供給される感作形態を設定し、C57BL6マウスを感作した時に誘導される、全身性と粘膜系の免疫現象に関する実験を行った。正常マウスはTNPと同程度のPCに対する応答性を示すことが明らかになった。計画時点ではPCは自己細胞や環境中に常在する物質であるのでワクチン接種前の何らかの自然感作の可能性を想定していたが、今回の結果は無菌・無抗原状態ではない正常マウスがPCに対する免疫記憶あるいは免疫寛容のいずれの感作も受けていないことを示唆した。むしろ、鼻腔洗浄液中IgM抗体や血清中の全アイソタイプの抗体の増加度が、TNPよりもPCに対して強く誘導されるという結果はワクチンを投与されない正常マウスがPCに対して免疫学的にナイーブであることを支持している。 抗PC-BSA活性から抗BSA活性を減算することによってPC特異的な抗体活性を測定することが可能となり、各試料中の抗PC-IgA、IgGおよびIgM抗体価測定のための、ヒトのPC特異的抗体のELISA測定系を確立することができた。測定系の確立という目的は達成したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果に基いて動物実験において引き続き、抗原投与経路、抗原量、物質形態、宿主側の遺伝要因、応答を担うリンパ球亜群のタイプやサイトカイン群等の詳細について理解を深めるとともに、疫学的研究を遂行して、ヒトの抗PC免疫応答の存在と実態を探る予定である。最終的に両者から得られた知見を統合し、PC 対する免疫応答の調節に対する口腔細菌の影響を明らかにする。ヒトサンプルの抗PC抗体測定について、当該専門技術を有する口腔科学教育部大学院生の研究補助を求めて、代表者の指導の下で遂行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に引き続いて動物実験を行うため、再測定用の各種のモノクローナル抗体を含む免疫研究試薬群、細胞培養用試薬、一般試薬、実験動物および飼料の購入代金として物品費を使用する予定である。旅費に関しては、国内および海外の研究動向を積極的に調査するために得られた成果を海外の学会で発表して、国際共同研究への展開を目指した討議を行っていく考えであり、そのための外国旅費として使用する予定である。また博士課程大学院生との継続的な研究協力体制下に実施する計画であるため、謝金等にも研究費を使用する予定である。 繰越金は次年度の物品費にて使用する予定である。
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