DNAによる法医学的検査における個人識別には主に常染色体およびY染色体のSTR多型検査ならびにmtDNA多型検査が用いられている。しかし、犯罪現場等に遺留された血痕や唾液・精液斑についてDNA鑑定を行う場合、一個人に由来する試料なのかあるいは複数人に由来する試料なのか、DNA鑑定の結果からは判断が困難な場合がある。そこで、斑痕試料から1個の細胞を採取し、斑痕試料からのDNA鑑定における精度を向上させるための方法を確立する。 1 アプリケーターチップの一部をElution Buffer(1ml)に浸すことで細胞を浮遊させ,溶液をシャーレ中に分注し,倒立型リサーチ顕微鏡 CKX41N-31PHP (OLYMPUS),CellTram vario (eppendorf),TransferMan NK2 (eppendorf) を用いて細胞1個を採取した。採取した細胞をTks GflexTM DNA Polymerase (TaKaRa)を用いて直接ミトコンドリアDNAのHV1およびHV2を増幅させ,シーケンスにより配列を決定したところ対象者本人のDNA型を検出した。 2 斑痕試料からトランスファーした1個の細胞からミトコンドリアDNAおよび核DNAを抽出し,1個の細胞からの検査が可能であるか試みた。トランスファー細胞からQIAamp DNA mini kit (QIAGEN)を用いてDNAを抽出し、PCR増幅を行ったところ、目的の範囲が増幅され、対象者本人のミトコンドリアDNA型を検出した。 今回の方法により、トランスファーした1個の細胞からのミトコンドリアDNA型の検出、および抽出によるDNA型の検査が可能であることが確認され、これからの個人識別にとって応用価値が極めて高いことが明らかとなった。
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