研究課題/領域番号 |
23792532
|
研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
谷口 奈央 福岡歯科大学, 歯学部, 講師 (60372885)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | galactosidase / volatile sulfur compound / halitosis / oral streptococci / physiologic halitosis |
研究概要 |
口臭の主な原因である揮発性硫黄化合物は、口腔内の嫌気性菌による含硫アミノ酸の代謝産物である。含硫アミノ酸の供給源のひとつとして、唾液ムチン由来タンパクの重要性が示唆されているが、ムチンから揮発性硫黄化合物が発生するまでの過程はほとんどわかっていない。本研究では、口腔レンサ球菌のグリコシダーゼ活性に注目し、主要な口腔レンサ球菌によるムチン分解が嫌気性菌によるアミノ酸分解反応に及ぼす影響を調べ、口臭発生に係る口腔内常在菌の役割を明らかにする。これまでに、口臭患者を唾液中のβガラクトシダーゼの有無で2群にわけ、口臭レベルを比較したところ、βガラクトシダーゼ陽性群は陰性群に比較して官能検査値、サルファイドモニター値、ガスクロマトグラフィー値、すべての口臭パラメーターにおいて有意に高い値を示した。また口臭の原因となる臨床パラメーターについて比較したところ、βガラクトシダーゼ陽性群では舌苔の付着スコアが陰性群に比較して有意に高かった。一方、舌苔とともに口臭の主な原因となる歯周病パラメーターにおいては、2群間に差はみられなかった。このことから、βガラクトシダーゼ活性は口臭と関係があり、歯周病由来でなく生理的口臭との関連性が示唆された。そこで次に、口臭患者の刺激唾液中のβガラクトシダーゼ活性を定量的に測定し、歯周病群と非歯周病群にわけて、口臭パラメーター、臨床パラメーター、細菌パラメーターとの相関関係を調べた。その結果、βガラクトシダーゼ活性は非歯周病群において、全ての口臭パラメーターと正の相関があり、臨床パラメーターではプラークインデックス、舌苔付着スコアと有意な関係がみられた。一方、歯周病群においては、βガラクトシダーゼ活性と口臭パラメーター、臨床パラメーターはともに正の関係は認められなかった。細菌パラメーターでは非歯周病群においてβガラクトシダーゼ活性と総菌数に正の関係がみられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの口臭メカニズムの研究は、揮発性硫黄化合物 (volatile sufur compound, VSC) 発生の直接的原因である嫌気性菌によるアミノ酸分解過程に焦点が当てられていた。本研究の特色は、その前段階の機構について詳細を検討するところにあり、口腔内で最も優勢な口腔レンサ球菌のグリコシダーゼに注目し、豊富なアミノ酸の供給源として考えられる唾液ムチンからVSCが発生する機構を解明する。まず、歯周病を持たない口臭において、βガラクトシダーゼ活性と口臭レベルに正の相関があることを明らかにした。さらに、βガラクトシダーゼ活性とプラークインデックス、舌苔付着スコア、総菌数に相関があることから、口腔常在菌である口腔レンサ球菌によるβガラクトシダーゼの生理的口臭への関与が強く示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
主要な口腔レンサ球菌のβガラクトシダーゼ活性を調べ、菌種間の酵素活性と局在の違いを明らかにする。また、ヒトより採取した刺激唾液ならびに安静唾液にて各種口腔レンサ球菌を前培養し、続く舌苔に多く存在するVSC産生菌による硫化水素、メチルメルカプタン産生への影響について解析する。ムチンの分解についてはポリアクリルアミド電気泳動によって粘液細胞由来MG1 (1 MDa) と漿液細胞由来MG2 (200 kDa) を分離し、ウェスタンブロットを用いてそれぞれの変化を調べる。Streptococcus salivariusのβガラクトシダーゼ遺伝子の単離、遺伝子構造解析を行う。これまでに報告されている、S. pneumoniae, S. mitis, S. gordoniiのβガラクトシダーゼ遺伝子の塩基配列を比較解析し、共通領域のジゴキシゲニン標識プローブを作製する。制限酵素で切断したS. salivarius GTC215株の染色体DNAをアガロースゲル電気泳動を行った後、サザンブロット法を用いてクローニングするために適当な制限酵素を決定する。続いて、S. salivarius GTC215株の染色体DNAを決定した制限酵素で切断し、電気泳動後のゲルより、βガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を回収する。このDNA断片を同じ制限酵素で切断したベクタープラスミドpBlueScript II SK+にクローニングし、塩基配列を決定する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
βガラクトシダーゼ活性測定、プローブ作製、サザンブロット、クローニングなどに必要な試薬・プラスチック類の購入が必要である。また、単離した遺伝子の塩基配列決定のためのシークエンス解析は専門業者に委託する予定のため、その必要経費が発生する。
|