研究課題/領域番号 |
23792540
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
金子 周平 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10529431)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ロールレタリング / 看護学生 / 共感性 / 想像活動への関与 |
研究概要 |
共感的アプローチは患者の不安軽減,痛みのマネジメント,慢性疾患の適応等と関係する(Kirk, 2007)が,看護学生に共感的理解は身につきにくい(Price et al,1997)と言われる。本研究ではロールレタリング(RL)のイメージを用いた技法による看護学生の共感性の変容について,心理尺度を用いて客観的に検証することを目的とする。A・B大学一年次看護学生118名を対象とした。2回の授業で3つのモデル事例の提示後,看護師と患者の立場からメッセージを書くRL(下村,2001;關戸,2003)と小グループでの話し合いを行った。イメージを用いた技法で重要であると考えられる想像活動への関与尺度(III尺度)を授業前に測定した。また多次元共感性尺度(MES;被影響性,他者指向的反応,想像性,視点取得,自己指向的反応の5因子)を授業前後(pre,post)に測定した。III尺度の平均で高低群に分け,MESについて2(H,L)×2(pre,post)の分散分析を行った。MES合計と「他者指向的反応」では交互作用がみられた。イメージに深く没入できた群でMES合計,「他者指向的反応」の得点が低下したことから,1)他者の視点に立った共感的理解の向上には至らないこと,2)自分の共感性を楽観的に捉えない(現実的な)状態になったこと,3)患者理解への負担を多少なりとも感じたことが示唆される。ここからRLには時間をかけ学生の自信喪失や負担感を共有しながら取り組む必要があると言えよう。「被影響性」では,時期の主効果 がみられ,postで得点が低下した。一方「被影響性」や「自己指向的反応」の低下から,自身が巻き込まれない「自他の区別(角田,1998)」は進んだと言える。また「想像性」や「視点取得」は変化せず,認知的側面の変容には影響を及ぼさないことも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、平成23年度にA大学の看護学生のみを対象として途中経過の学会発表を行う予定であったが、B大学の看護学生のデータも収集することができた。また2名の看護教育に関わるロールレタリング(RL)研究者の協力を得て、RLワークブックも完成した。2名の研究者には、a.ワークブックの課題が一般的に分かりやすい場面であること、b.複数の課題が、疾患や症状、患者の特徴や感情の面で多岐にわたっていること、c.体験学習に抵抗を感じる、課題を理解しにくい看護学生への配慮がなされていることの3点について、確認作業をおこなった。充分なデータ数を集めることができたため、途中経過の発表という位置づけにはせず、研究のまとめを行ったうえで学会発表を行った。一方、データが多くなったため、ロールレタリングの記述の質的分析を行わず、次年度に持ち越しとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究仮説と異なる結果が得られたため、以下のような新たな研究計画を立てる。共感性の育成を狙いとした教育のプログラムの中で、3つのモデル事例とのロールレタリング(RL)を行ったことで、学生の負担感や自信喪失の感情をもたらした可能性がある。そのため、負担感や自信喪失の感情を共有しながら、プログラムを丁寧に進める必要がある。平成24年度はB 大学看護学生(1 年生:80 名程度)を対象に、研究代表者がワークブックの一部のみを用いて体験的学習の進行し、小グループでの話し合い(シェアリング)に重点をおいたRLを実施する。また、看護師役割や患者役割を用いない、看護学生同士の自己開示や他者理解の体験的なグループ・ワークをRL前に用いることによって、総合的な共感性の育成を狙うプログラムを実施する。データの入力はアルバイトに依頼し分析は研究代表者が行う。平成23年度と同様、分析は統計ソフトSPSS を用いる。平成23年度の実施方法と結果を第一研究、平成24年度の実施方法と結果を第二研究として学会発表を経て論文投稿を行う。さらにRLの質的データの入力をアルバイトに依頼し、その分析から、看護学生の体験のプロセスを明らかにし、学会発表を行う。またRLの心理教育的活用や看護教育、その他の対人援助職の養成方法の発展と議論に寄与するため、研究代表者のホームページ上にワークブックと主な研究成果を公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は、ロールレタリング(RL)やグループ・ワークに関連する臨床心理学分野の書籍、データ収集に必要な消耗品、データのまとめや分析のための電子媒体やソフト、学会発表や投稿論文、ホームページ公開のために必要な消耗品などとして使用する。旅費は研究協力者との打ち合わせ、学会発表のための旅費として使用する。謝金等は質問紙のデータ入力、RLや気づきを記入したワークブックを電子データとして入力するための作業をアルバイトに依頼し、そのアルバイト代として使用する。その他は、学会参加費、論文掲載費として使用する。
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