研究課題/領域番号 |
23792575
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
渡邉 信博 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (00540311)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | タッチ / 痛み / 循環 / オピオイド / 脊髄 |
研究概要 |
本研究は、痛み刺激による心拍・血圧(循環)応答に対するタッチの効果とそのメカニズムを解明することを目的とする。今年度は第一に、安定して循環応答を誘発する方法論を確立した。具体的には、ラットをハロセンで初期麻酔した後、ウレタン(1.4g/kg)を皮下投与し、十分に麻酔が効いた状態で手術・実験を行った。痛み刺激として、Peltier素子を備えた熱刺激装置を用いて、46℃-48℃の熱刺激を臀部に対して43-45秒間与えた。5分毎に2回の熱刺激を1セットとし、同セットを10分間毎に与えた。熱刺激に伴い、心拍・血圧の変化が見られた(それぞれ平均10拍/分、10mmHg)。第二に、熱刺激により誘発される循環応答に対するタッチの効果を検討した。柔らかいエラストマー製のブラシ(土台サイズ直径11mm)を使ってラットの右大腿内側を10分間タッチしたところ、熱刺激時に見られた心拍・血圧の変化幅が有意に小さくなった。循環応答に対するタッチの抑制効果は、タッチ中より見られ、タッチ終了後10-15分に最大となり、その後タッチ前のレベルに回復する傾向が見られた。したがって、侵害性熱刺激による侵害受容伝達は、タッチにより抑制される可能性が示唆された。第三に、タッチの効果への内因性オピオイドの関与を検討した。腰髄クモ膜下腔に留置したカテーテルを介して、オピオイド受容体遮断薬ナロキソン(10μg)を投与し、タッチの効果を検討した。その結果、循環応答に対するタッチの抑制効果は見られなかった。以上の結果より、タッチは脊髄内のオピオイド系を賦活させることにより、侵害性熱刺激による侵害受容伝達を抑制し、心拍・血圧応答を減弱させると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の目的は、1)侵害刺激による循環応答を再現良く得るための方法論の確立、2)侵害刺激による循環応答に対するタッチの効果の検討、および3)内因性オピオイドの関与とその作用箇所の検討であった。特に、タッチによる影響を経時的に検討することを目的としたため、再現性の高い反応を得ることが必須であった。本年度、再現性の高い実験方法を確立することができ、実験を効率的に進められたため、当初の計画を達成することができた。その結果、使用する実験動物の数も最小限にとどめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、タッチの効果に関連する1)オピオイド、および2)皮膚感覚受容器を解明する計画である。当初は、電気刺激を用いて循環応答を誘発するモデルを確立し、使用する計画であった。しかし、より実際の痛みに近く、再現性の良い手法として、熱刺激を用いた実験モデルを本年度確立した。同モデルを使用して、今後も研究を推進する。1.タッチの効果に関連するオピオイドの検討今年度、タッチは脊髄のオピオイド系を賦活し、熱刺激による侵害受容伝達を抑制し、誘発される循環応答を減弱させることを示した。オピオイド受容体は3つのサブタイプに分けられることから、各サブタイプのオピオイド受容体の遮断薬を腰髄クモ膜下腔に投与し、実験を行う。タッチの抑制効果を減弱、消失させるオピオイド受容体遮断薬は、関連するオピオイドの受容体への作用を遮断したことになる。各サブタイプのオピオイド受容体に作用する内因性リガンドは知られている。したがって、タッチの効果に関連するオピオイド受容体を同定することにより、タッチにより放出される内因性オピオイドの種類が推測できる。2.タッチの効果に関連する皮膚感覚受容器の検討古くから知られている様々な感覚受容器に加え、近年、体性感覚の分子メカニズムの解明が進み、熱や機械的刺激に応答する種々のイオンチャネル(体性感覚チャネル)およびその遮断薬が知られるようになってきた。本研究では、まず、タッチに対する各皮膚感覚受容器の応答を抑える体性感覚チャネル遮断薬を明らかにする。続いて、体性感覚チャネル遮断薬を投与し、熱刺激により誘発される循環応答へのタッチの効果を検討する。タッチの効果を減弱、消失させる体性感覚チャネル遮断薬を明らかにすることにより、関連する皮膚感覚受容器が解明される。体性感覚チャネル遮断薬の効果が不十分な場合、各体性感覚チャネルのノックアウトマウスを用いた実験に変更することも検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、当初計画していたものとは異なる実験モデルを確立し、その上、使用する実験動物の数が当初の計画よりも少なく進行した。その結果、予定していた消耗品の使用が少なかったため、低予算で研究が進み、残額が生じた。今年度未使用分の研究費で熱刺激装置の熱源部分を購入する予定である。次年度の研究費として、以下の理由より各種消耗品、旅費、謝金の経費を必要とする。1)本研究は、実験動物(ラットまたはマウス)を用いたin vivoの研究であり、動・静脈や気管への挿管、神経の分離、切断などの細かい手術を行うため、精密な手術器具が必要である。2)本研究では、実験を行うにあたり、麻酔薬や受容体遮断薬などの種々の薬品類が必要である。3)本研究において得られたデータは、コンピューターのハードディスク内に保存されるが、不測の事態に備えて、記録用紙への記録も同時に行う。そのため、記録用紙が必要である。4)ラットの皮膚にタッチするため、エラストマー製ブラシが必要である。5)本研究に関連する領域の見識をより一層深めるために、最新の図書を購入する必要がある。6)国内外学会での研究成果発表のために、旅費が必要である。7)英文論文発表にあたり、英文校閲費用を必要とする。
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