研究課題/領域番号 |
23792583
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
山田 章子 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (90437103)
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キーワード | 痛み / 日本語版CPOT / 人工呼吸器装着患者 / ICU / 非言語的コミュニケーション / アセスメント |
研究概要 |
ICU入室患者は、喀痰排出・創痛などの身体的痛みや、治療に対する不安などの心理的痛みを感じることが多い。このような痛みは、不眠、見当識障害、不穏、興奮など生じ、さらには頻脈、血圧上昇免疫抑制など、重篤な合併症を引き起こす危険性があるため、痛みのコントロールは重要である。言語的にコミュニケーションのとれる患者は、看護師が痛みの評価スケールを用いながら、直接患者に確認して痛みの有無や程度およびその変化を的確に把握することができる。しかしICU入室患者は、しばしば人工呼吸器を使用することがあり、発声できず、意思疎通を図ることが難しい。痛みの程度を評価するスケールは、多数開発されているが、言語的コミュニケーションが困難な患者に使用できるものは極わずかで、痛みの部位や種類まで評価することはできない。本研究は、ICUに入室し言語的コミュニケーションが困難な患者の痛みを、的確に把握するためのアセスメントツールを開発することを目的とした。 本研究は、3過程で構成しており、第1過程は、痛みの程度を測定する尺度(Critical-Care Pain Observation Tool;CPOT)の日本語版の信頼性と妥当性の検証を行う。これは、ICUに入室し人工呼吸器を装着した患者の痛みの程度を、刺激直前、刺激後、刺激後20分の3回を2人で日本語版CPOTで評価し、同時に血圧や心拍数などを測定し、抜管は日本語版CPOTとNumeric Rating Scale(NRS)で痛みの評価を行う。第2過程は、対象者の体験する痛みを把握するために、ICU入室中は、対象者の観察を行ったり、看護ケアを行いながらの会話や診療録から痛みについての情報を得る。ICU退室後、状態が安定した時期に、ICU入室時の体験についてインタビューを行う。第3過程は、第1・2階で得られた結果から痛みのアセスメントツールを作成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
痛みの概念分析を行った結果、痛みは、不快な刺激を受ることで、身体的・精神的変調をきたし、主観的に表現したものであると定義した。 データ収集を行う前に、日本語版CPOTを作成した。CPOTを使用するに当たり、作成者であるにGelinasに、E-Mailで本研究の主旨を説明し、尺度の使用許可を得た。英語を母国語とする2名に翻訳を依頼した。日本語に翻訳された尺度を研究者と専門家5名で内容を検討した。検討した日本語版CPOTを、英語を母国語とする2名に英語への翻訳を依頼した。2か所に相違が見られたため、作成者に連絡し、内容の確認を行った。さらに、 データ収集は、2つの過程を同時に実施している。データ収集方法は、第1過程の日本語版CPOTの信頼性と妥当性の検証は、刺激直前、刺激後、刺激後30分の1クール3回を2人で評価し、その時の血圧・心拍数・呼吸数の測定を記録する。同時にRichmond Agitation Sedation Scale(RASS)を用いて鎮静レベルの評価を行う。抜管した後は、研究分担者1名で日本語版CPOTとNumeric Rating Scale(NRS)で痛みの評価を行う。第2過程のICU入室中に患者が体験する痛みの言語化は、ICU入室中に、対象者の観察や、看護ケアを行いながらの会話、および診療録から痛みの部位や種類についての情報を得る。ICU退室後約1週間たち、状態が安定した時期に、研究分担者がICU入室中の痛みについてインタビューを30分程度行う。 データ収集を行うにあたり、実施施設の倫理委員会の承認を得た。現在、10名の対象者に同意が得られデータ収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、第1過程の日本語版の信頼性と妥当性の検証と同時に、第2過程のICU入室患者中に患者が体験する痛みの言語化としてインタビューも行っていく。前年度の予定では、第2過程は、ICU入室患者の痛みの構造化を行いために、調査用紙を作成して、臨床看護師に調査用紙を配布し、回収したデータをもとに構造化していく予定であった。しかし、痛みの概念分析をした結果、痛みのアセスメントツールの作成を行うためには、患者自身の体験を言語化しなければ観察項目の作成が不可能であることがわかり、方法を変更した。 第1過程では、測定者間信頼性、構成概念妥当性、基準概念妥当性、収束妥当性の検証を行うため、100例のデータ収集を行う。第2過程は、観察や会話、インタビューから得られた情報は、Berelson,B.が提唱する内容分析の手法を参考に分析を行う。 最終的には、アセスメントツールの作成を行うが、現段階では4段階の構成を考えている。まず、RASSで鎮静状態を評価し、深い鎮静状態である-4以下の場合は、その時点でそれ以上の痛みのアセスメントは行わない。-3以上の場合は、今回作成した日本語版CPOTで痛みの有無や程度を評価する。痛みが少しでもある場合は、緊急な処置を要するかどうかを判断する。この判断には、生命を脅かすような急性心筋梗塞、急性大動脈解離や脳出血などの疾患に共通な徴候をリストアップする。緊急を要する疾患が疑われる場合には、ただちに医師に報告する。緊急を要しない場合は、痛みの部位や性質を特定するために、看護師が観察とクローズドクエスチョンを行う。この観察項目と質問項目は今回の研究で明らかとなった痛みの直接的要因、痛みを増強させる要因、鑑別が必要な症状とする。痛みの部位や性質の特定を行い看護援助を行った後、痛みの程度がどのように変化したか、日本語版CPOTを用いて評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後は、第2過程のデータ分析において、インタビューのテープ起こしおよび、内容の信頼性と妥当性を確保するために、インタビュー内容の分析を研究者以外の1名に依頼するため、謝金が発生する予定である。また、データ分析を行う際に、質的研究の分析ソフトを購入する予定である。 アセスメントツールの作成を行うにあたり、文献の取り寄せや資料の整理に費用がかかる。 本研究は、研究の妥当性を高めるために、専門家のスーパービジョンを受けて行うため、旅費が必要となる。さらに、関連する学会での情報収集や、得られた結果を発表するための旅費が必要となる。
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