本研究の目的は、人工妊娠中絶術(以下、「中絶」とする)を受ける女性と看護者の中絶場面におけるやり取りの中で、互いにどのようなことを思って対応・反応しているのかを明らかにすることである。研究方法としては、エスノグラフィーを用いて行い、参加観察および面接を行った。 研究最終年の本年度は、昨年9月より行っている参加観察を継続し、産婦人科において、中絶はどのように行われているのか(環境、時間、場所など)という全体的な観察から徐々に焦点を絞り、中絶当日、中絶を受ける女性と看護者がやり取りをする中で、互いにどのような反応および対応をしているのかについて観察をした。同時に、看護者に対し半構造化面接を実施した。面接は、非公式面接と公式面接を行った。非公式面接では、主に参加観察により気づいた点や気になる点について、その都度、尋ねた。公式面接は、14人の看護者に対し、1人につき1回30分程度実施した。 その結果、分娩設備を持つ診療所において、中絶を行うタイミングは難しく、スタッフは時に優先順位を考えるための話し合いを持った。そして、看護者によっては、中絶のために分娩進行者を待たせることはできないと考えていた。また、中絶当日、装飾品を除去するようにアナウンスしているにも関わらず、外さない患者の態度に、怒りを口にする看護者もいた。 今回、参加観察により研究者がその場に身を置き、中絶現場における看護者や中絶を受ける女性と体験を共有し、内部者(イーミック)と外部者(エティック)の両者の視点を持つことで、単に面接やアンケート調査をしただけの結果よりも、より看護者の行動の意味を理解することが可能になったと考える。 研究開始当初、得られた結果を今年度中に学会等で公表する予定であった。しかし、研究者が産休を取得した関係で、学会発表は行えなかった。今後、順次、まとめた結果を発表する予定である。
|