本研究は、自殺企図後のうつ病者を対象として、ナラティヴ・アプローチにより治療的に関わり、自殺に至るまでと自殺企図後の感情および状況を明らかにし、自殺念慮改善のための看護介入の効果を検証することを目的とした。 対象は、自殺企図が原因で入院となったうつ病あるいは双極性障害患者であり、ナラティヴ・アプローチを活用した非構造化面接によりデータ収集を行った。研究参加者は男性5名、女性6名、平均年齢は44.0±12.7歳、参加者のうち4名が自殺再企図者であった。面接時間は40~70分/1回、面接回数は1~8回/1人であった。 自殺企図後のうつ病者における感情および状況について、自殺に至るまでと自殺企図後に分け、質的帰納的に分析した。その結果、自殺前の感情および状況として【常在する自殺念慮】【強い孤独感】【長年にわたる家族への我慢】【価値のない自分】【生への絶望感】【自殺の衝動】の6カテゴリー、自殺後の感情および状況として【死への執着】【自殺の肯定】【医療者への隠された本音】【抑うつ状態の持続】【家族からの疎外感】【先がみえない不安】【自殺念慮の緩和】【再生への意欲の芽生え】の8カテゴリーが抽出された。 参加者は、自殺未遂後も【死への執着】や【自殺の肯定】を抱えており、自殺前からの不変的環境下において容易に自殺念慮が高まる可能性があることが明らかになり、自殺未遂者に対する多職種による包括的支援の必要性が示唆された。また、自殺前後の感情や状況を研究者に語ることにより、参加者のこころが解きほぐされ、これまで捉われていた問題や自らの感情に目を向け、問題を客観的に捉えて冷静に対処する第一歩になったことが推察され、ナラティヴ・アプローチの有効性が示唆された。
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