研究課題/領域番号 |
23792752
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
上村 聡子 甲南女子大学, 看護リハビリテーション学部, 助教 (70454725)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 医療・福祉 / 高齢者 / ICT / 過疎地域 / 都市 |
研究概要 |
本研究は、高齢者が望む場所で豊かな生活を営むためのICT(Information and Comunication Technology)を活用した高齢者の見守りシステムの在り方について検討することを目的としている。平成23年度は、1.高知県大豊町における調査、2.平成24年度に開始する神戸市調査の予備調査を行なった。 大豊町で行われているICTを活用した支援は、65歳以上の一人暮らし高齢者と70歳以上の高齢者二人世帯を対象とした「緊急時に対応するサービス(シルバーホン、携帯電話)」と「相談・伺いなどの見守り系サービス(IP電話)」である。このICT支援の必要性と、ICT支援が高齢者に及ぼす影響とを明らかにするために、高齢者の暮らしや人と人とのつながりについての調査を行った。具体的には、地域で暮らす高齢者の居宅訪問、老人クラブへの参加観察である。調査地区は大豊町の中でも中心部から離れたA地区を選定した。A地区で暮らす高齢者は「寂しいところ」と表現しながらも、都市での暮らしを望んでいない。冬には積雪のために家から出ることができない日もあるが、A地区では四季に合わせた生活と受け止めている。家から出ることができない日や夜間は、IP電話の無料サービスを活用し、話の花を咲かせている。ICTは単に高齢者の生活を見守る道具ではなく、高齢者が人とつながるための道具でもあった。過疎の進む地域における生活の不便さや、今後の生活への不安がクローズアップされがちだが、本調査ではICT支援に頼りすぎることなく生活をしている高齢者の姿が見られた。高齢者を支援する側として、Iターン者へのインタビュー調査を行なった。相互扶助の文化が根付く大豊町でも、世代間での考え方の違いはある。さらに、他の地域から移住してきた若者世代から見た大豊町の姿は、今後の支援を検討する上で、非常に重要な示唆を得ると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度調査は次の4点を計画していた。1.大豊町の住民の暮らしについて課題を整理する。2.大豊町におけるICTを活用した高齢者の生活支援についての調査。3.都市部におけるICTを活用した高齢者の生活支援の調査。4.ICT支援に関する事例をもとにした文献調査。1・2に関しては、住民との関係性の構築、データの収集に関して行うことができたが、分析を行い課題を明確にするには至っていない。また、平成23年度に行うインタビューが2件残っている。十分な方法を集め検討を行えていないことが、遅れている理由としてあげられる。 「やや遅れている」理由の2点目は、3の都市部における調査が大きく影響している。過疎地域と都市部とを並行して研究することは、非常に難しいため、平成23年度を大豊町調査期間とし、平成24年度を都市部の調査期間と変更した。さらに、都市部の研究フィールドを選定しなおすことから行った。研究フィールドを神戸市灘区とし、神戸市におけるICT支援の概要、灘区の歴史等の予備調査を行った。しかし十分な調査ができたとは言えず、平成24年度の調査開始が遅れることになった。以上の2点が評価の理由であるが、平成24年度の調査を開始するに当たっては、これらの課題を明確にした状態で遂行していく。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は次の計画で研究を実施する。1.都市部の住民の暮らしの実際を明らかにし、課題を整理する。2.都市部(神戸市)におけるICTを活用した高齢者の生活支援についての調査。4.大豊町の継続調査。 都市部については、神戸市灘区を研究フィールドとする。神戸市灘区は2度の震災から、コミュニティの崩壊と再生を経験した町である。この町に関しては、震災復興住宅等で多くの研究・介入が行われているが、本調査のフィールドとするのは、阪神淡路大震災での被害が比較的少なく、昔から居住する高齢者の多い地区とする。人と人とのつながりが希薄と言われている都市部において、そのつながりがどのように変化しているのかを明らかにし、ICT支援が果たす役割について検討を深めることとする。研究対象者は大豊町同様、地域で働く専門職(医師、看護師など)、見守り推進員(神戸市独自の取り組み。地域包括支援センターに配属されている。調査協力については、現在、市の返答を待っている状況)、高齢者、若者世代と多様な意見を聞き、実態把握に努める。 大豊町に関しては、平成23年度に関係性を構築できた方々を中心に、インタビュー調査等でかかわりを継続していく。大豊町の自治会・若者世代のインタビューからは、地区を取りまとめるマンパワー不足から、地域住民活動の継続が課題として挙げられた。この課題を中心に、過疎の進む地域の現状を明らかにしていく。 平成25年度は両地域の継続調査と、過疎地域と都市部との比較を行っていく。過疎地域と都市部との相違点・共通点を明らかにし、ICT支援のあり方を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費の主な使用は、調査地交通費である。調査地:高知県大豊町は、平成23年度と同額相当使用予定である。調査地:神戸市に関しては、調書作成時の場所(大阪)に比べて近隣であるため、交通費は減額することが予想される。平成23年度は国内視察ができなかった。平成24年度は岡山の見守りネットワークを視察予定。また、兵庫県の限界集落において、本学科の教授(松浦尊麿)が地域ケアネットワークの基盤整備を行っている。この地域への視察も行う予定としている。平成25年度も同様である。
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