研究課題/領域番号 |
23800001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内ヶ島 基政 北海道大学, 大学院・医学研究科, 助教 (10614662)
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キーワード | 神経科学 / 内因性カンナビノイド / てんかん / 海馬 / シナプス |
研究概要 |
内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、ニューロン活動依存的にポストシナプス側から合成、放出され、プレシナプス側のカンナビノイド受容体CB1を介してシナプス伝達を抑制する。この逆行性シナプス伝達抑制機構は、ニューロンの興奮性制御に重要であり、神経回路の異常興奮が原因とされるてんかん発症とも関連が予想されている。そこで本研究では、歯状回苔状細胞投射領域にてんかんの原因となりうる2種類の興奮性反回回路シナプスが形成されることに着目し、それぞれのシナプスにおける2-AG伝達のための分子形態基盤の確立を目指している。これまでに、その一方である苔状細胞―顆粒細胞シナプスにおいて、以下のことを新たに見出した。2-AG合成酵素DGLaはポストシナプスとなる顆粒細胞スパインの基部を中心に発現したのに対し、2-AGの受容体CB1はプレシナプスとなる苔状細胞終末およびその近傍軸索部に分布した。すなわち、苔状細胞―顆粒細胞シナプスに2-AGを介した逆行性シナプス伝達抑制機構が備わっていることを示している。一方、2-AG分解酵素MGLは、苔状細胞―顆粒細胞シナプスに発現せず、その周囲のアストロサイトや抑制性終末のみで発現し、それらは2-AGの主要な放出部位と想定される顆粒細胞スパインを部分的にしか覆っていなかった。加えて、苔状細胞―顆粒細胞シナプスは空間的に高密度に存在し、互いに隣接しながら分布していたことから、苔状細胞―顆粒細胞シナプス周囲では2-AGが空間的に拡散しやすい分子形態基盤が存在し、局所で産生された2-AGが複数の苔状細胞―顆粒細胞シナプスの伝達を効率的に抑制することが示唆され、このシナプス伝達抑制機構がてんかん発症の予防に寄与しているのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、正常マウスの苔状細胞一穎粒細胞シナプスにおける2-AG伝達関連分子の発現分布を明らかにし、本研究目的の2つの大きな柱のうちの一方を達成できた。一方、もう一方の柱であるてんかんによって新たに形成される顆粒細胞一顆粒細胞シナプスにおける2-AG伝達のため分子形態基盤の確立にはまだ至っておらず、さらなる進展を目指す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画の遂行に必要不可欠な側頭葉てんかんモデルマウスの確立を急ぐ。現在、ピロカルピン誘発性てんかんモデルの確立を考えているが、うまくいかない場合は別の方法を検討する。てんかんモデルマウスができ次第、形態解析に移行する予定である。本研究計画では、野生型マウスにおける2-AG伝達のための分子形態基盤の解明を目的としているが、順調に進んだ場合は、さらに2-AG伝達系のてんかんに対する機能的寄与を明らかにするため、CBIあるいはDGL欠損マウスを用いたてんかんモデルの作製を行い、野生型との比較を行う。
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