研究概要 |
研究計画に基づき,本年度はDNA分子自体のもつ柔軟さをいかした構造設計・作製の指針を構築するため,ねじれ・曲げが可能なDNAナノ構造のプロトタイプの設計,作製を行った.具体的には,まず,T-モチーフとよばれる独自のDNAナノ構造設計手法を用いた梯子型構造を基本として,はしごの左右の「手すり」部分の長さを変更することで自在にねじれや曲げを制御する設計手法を考案した.はしごの両方の手すりを同じだけ長くすることにより,DNA自体が持つ二重らせんの位相ズレを利用した「構造のねじれ」を,また,らせんの位相を考慮した上で片方の手すりのみを長くすることで「構造の曲げ」を実現するというのが基本的な戦略である.この設計手法にはいくつかの利点がある.ひとつは,DNA二重らせんそのものが持つ構造特性を利用することで,基本設計から派生した変形構造を容易に設計しうるという点である.2つ目としては,二重らせんが密に並んでいないため,ストランド・ディスプレイスメント(DNA鎖の入れ替え)による構造制御が容易に行える点である.この2点の特長を活かすことで,将来的には可逆的な構造変化をおこす構造作製も可能であると考えられる. この「ねじれ・曲げ」がどの程度発生するか概算したうえで,いくつかの構造設計を行った.このうちねじれのプロトタイプ構造を実際に作製し原子間力顕微鏡で観察したところ,ねじれたはしご構造が裂けた状態で並ぶ2次元構造を得た.さらに,曲げのプロトタイプ構造についても同様に作製し観察したととろ,2次元の多角形構造が作製できた.また後者については,本来であれば正方形になるように設計したものが,実際の実験では五角形や六角形にもなる結果も得たことから,設計よりも曲率が少ない構造が形成されうるといったことが示唆された.この結果を踏まえ,望まない構造形成を防ぐような工夫を行い,ふたたび構造を設計・作製したところ,意図通りの二次元正方形構造が正方格子状に整列する現象が確認できた.これらの実験により,設計可能なねじれ・曲げ構造め原理と作製のための設計指針が明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記述した項目のうち,平成23年度に実施するとした「形状変化構造のプロトタイプの設計・作製」については,その具体的な設計手法の考案,実際のプロトタイプ構造の設計および作製に成功し,さらにそこで得た知見を元に望みどおりの形状作製にも成功したことから,本年度の目標を達成し,研究計画に沿っておおむね順調に進行しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
基本的には今後も当初の研究目的・研究計画に従って推進する.二次元的な曲げ構造については,既存の原子間力顕微鏡でも十分観察可能であることがわかったため,電子顕微鏡を用いた三次元構造観察は必ずしも必要ない.そのため,次年度の可逆的な曲げ構造については計画通り既存の設備で実施する予定である.一方で,ねじれ構造を原子間力顕微鏡で観察する場合,構造が裂けた状態となってしまう.本年度のプロトタイプ構造をみる場合では構造が間接的にでも観察できれば十分であったが,次年度これをさらに発展させることを考えると,設計によっては電子顕微鏡での観察を試みる必要があると思われる.既存の設備で対応しきれないと判断した場合,電顕でのDNAナノ構造観察の実績がすでにある研究機関に出向くことにより,これについては対応する予定である.
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