本研究では、視覚性連合記憶に関する大脳皮質層構造の機能分化を調べ、その情報処理過程を解明することを目的としている。当該年度においては、2頭目の動物個体からのデータ収集を開始し、これを完了した。得られたデータを解析したところ、これまでに知られていなかった、大脳皮質層構造の詳細な機能分化を示唆する結果が得られた。 まず、2頭目の動物個体に関し、視覚性連合記憶課題に関連した活動を示す神経細胞のクラスター位置を同定するため、微小電極による課題遂行中の単一神経細胞活動記録を行った。下部側頭葉の嗅周皮質全域から200以上の神経細胞活動をX線計測によりマッピングし、一つの神経細胞クラスターの位置を同定した。次いで、同定したクラスター周囲にエルジロイ沈着による位置参照標識を生成したうえで、高解像度MRI画像を取得し、皮質層構造解析のための基準画像とした。そのうえで、視覚性連合記憶課題を遂行中の動物の下部側頭葉から、MRI対応小型マニピュレータを用い、留置微小電極により単一神経活動を記録した。毎回の記録後に留置した電極先端の位置を高磁場MRIにより同定することで、大脳皮質内における単一神経活動の記録部位を決定した。このような手法により、嗅周皮質における計450以上の単一神経細胞活動の詳細なマッピングを完了した。得られた神経活動データを解析したところ、連合記憶に関する活動において皮質層構造の機能分化が見られた。特に、記憶手がかかりの保持、記憶の符号化、記憶の想起に関わる神経細胞が、それぞれ大脳皮質において異なる深度に局在することが新たに分かった。このことは、下部側頭葉嗅周皮質の大脳皮質層構造が連合記憶に関わる機能分化を持ち、これに基づいた情報処理を行っていることを示している。今後、これらの成果を学会や論文での発表により広く報告する予定である。
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