研究課題/領域番号 |
23800023
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研究機関 | 東京芸術大学 |
研究代表者 |
田中 眞奈子 東京芸術大学, 社会連携センター, 教育研究助手 (70616375)
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キーワード | 文化財科学 / 非破壊分析 / 火縄銃 |
研究概要 |
平成23年度は、「研究実施計画」通りに3つのテーマに沿って研究を進め、非破壊分析による火縄銃に用いられた材料および製造方法の解明に関して、以下のような成果を得た。 (1)徳川ミュージアム所蔵の野田清堯製火縄銃(5挺)の状態観察:徳川家康の御用鉄砲鍛冶、野田清堯製の火縄銃の寸法計測、通常光撮影、赤外線撮影および光学顕微鏡観察を行った。状態観察から銃身に用いられている加工方法(象嵌などの金工技法)を明らかにし、また文献に記されていた情報と比較することでいくつかの新しい知見を得た。 (2)徳川ミュージアム所蔵の野田清堯製火縄銃(5挺)の銃身に用いられている鋼(表面生成物)および装飾金属の組成分析:携帯型蛍光X線装置を用いて火縄銃の組成を分析し、装飾金属として金、銀、黄銅、青銅などが用いられていることを明らかにした。銃身の鋼(表面生成物)の組成については特徴的な傾向がみられなかったが、平成24年度に実施する、Spring-8の高エネルギー蛍光X線を用いた極微量元素測定(主に重元素)を通して、銃身に用いられている鋼の原料同定や産地推定が可能と考える。 (3)大型放射光施設Spring-8の利用申請およびSpring-8での第1回実験(予備実験)用の標準試料の入手・作成:spring-8の2012A期の利用申請を行い、採択された。2012年7月の第1回実験にむけ、具体的実験方法の検討、砂鉄や鉄鉱石などの標準試料の入手・作成を行った。 一連の成果の中でも、携帯型蛍光X線装置を用いた組成分析を通して、野田清堯製火縄銃の装飾金属に金、銀などが用いられていることが明らかになり、野田清堯の銃の希少性を材料面から証明する非常に意義深い結果が得られた。平成23年度には、1報の査読付論文、3件の学会発表および1件の図書用原稿執筆を行い、研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、平成23年度は3つのテーマに沿って研究を進め、非破壊分析による火縄銃に火縄銃に用いられた材料および製造方法の解明に関して新たな結果を得た。野田清堯製の火縄銃に用いられた材料に関しては、携帯型蛍光X線装置を用いた組成分析を通して、主に装飾金属として用いられている材料に関して貴重なデータを得た。火縄銃の製造方法の解明に関しては、光学顕微鏡などを用いた状態観察を通して、銃身に用いられている加工方法(象嵌などの金工技法)を明らかにした。2012年7月のSApring-8での第1回実験にむけた準備も非常に順調に進んでおり、実験に用いる標準試料の入手・作成なども当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、当初の計画に沿って、(1)放射光施設Spring-8の高エネルギー蛍光X線装置で野田清堯製の火縄銃の組成を分析するにあたっての予備実験(標準試料の測定など)、(2)Spring-8での野田清発製の火縄銃の分析、(3)野田清堯製の火縄銃の非破壊分析結果と過去の破壊分析によって得られたデータの比較・検証を行う。(1)の予備実験においては、産地の異なる砂鉄と鉄鉱石の標準試料およびそれらを製錬して出来た鉄塊(〓)やその鉄塊を加工して出来た鋼板を用いて、それらの標準試料に含まれる微量重元素を定性し、重元素を指標に鉄原料の同定および産地推定が出来るか、また鉄の製錬・精錬工程および加工工程を経て、鉄原料に由来する重元素量にどの位変化がみられるかを確認する予定である。また(2)の本実験では、当初から予定していた高エネルギー蛍光X線分析による野田清発製の火縄銃に含まれる微量重元素測定に加えて、高エネルギーX線透過撮影も行う方向で検討中である。
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