非破壊分析により野田清堯製の火縄銃をはじめとする鉄文化財の分析を行い、その製造方法や用いられている材料を解明すること、そして鉄文化財の非破壊分析法の向上に寄与することを目的に、平成24年度の研究を行った。具体的には、研究計画に沿って、①大型放射光施設SPring-8での高エネルギー蛍光X線分析による微量重元素測定および高エネルギー透過撮影の予備実験・比較鉄試料の測定、②SPring-8での野田清堯製の火縄銃分析の本実験、③今回の非破壊分析によって得られた結果と、過去の火縄銃の破壊分析によって得られた結果の比較・検証を行った。 SPring-8の高輝度X線を用いることで、非破壊で鉄試料に含まれる微量重元素をK線で検出することが出来た。砂鉄は、産地により含まれる微量重元素に違いがみられた。これらを指標とすることで、鉄原料(砂鉄、鉄鉱石)の同定や産地推定につながる可能性がある。一方、野田清堯製の火縄銃やいくつかの鉄試料からは、特徴的な重元素は検出されなかった。この結果は、製錬および製品化の過程で鉄原料に含まれる重元素の大部分が取り除かれた可能性も示唆している。今後、更にサンプル数を増やし、検証を行う必要がある。また、高エネルギー透過撮影を通して、火縄銃に用いられている金属の厚さや具体的な技法を明らかにすることが出来た。非破壊分析で得られた結果と破壊分析で得られた結果の比較・検証を通して、放射光を用いることで、非破壊分析でも、文化財の製造方法や用いられている材料に関して新たな知見を得ることが出来ることを確認した。本研究は、放射光を用いて鉄文化財を非破壊分析した初の事例であり、今後さらに研究を深化することで、非破壊での鉄文化財解析手法の確立につながる可能性がある。 平成24年度には、2報の査読付き論文、3件の学会発表および2件の図書用原稿執筆を行い、研究成果を発表した。
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