大脳新皮質は多くの領野から成り、それらは連合線維と呼ばれる皮質内結合によって接続されている。長連合線維はその中でも、異なる頭葉間など、離れて存在する領野間を結ぶ神経連絡で、各領野で処理した情報を統合する高次の情報処理に関わっていると考えられている。例えばヒトにおいては、視覚野と感情認識に関わる領域を結ぶ長連合線維である下縦束や下後頭前頭束の損傷と顔の表情に現れる感情の認識不全との間に相関があることが示されている。また、近年では、自閉症と長連合線維異常の関連を示す報告もなされてきている。しかし、長連合線維の形成機構や、その形成異常と機能障害の因果関係は未解明である。本研究では、長連合線維の回路構造と形成機構の解析に必要な、長連合線維を選択的に標識できるプロモータを得るため、長連合線維の起点となる長連合ニューロンに特異的に発現する遺伝子の同定を行った。まず、マウス大脳皮質の一次運動野に逆行性トレーサーを注入し、一次体性感覚野の2/3層、5層、および6b層において標識された長連合ニューロンをレーザーマイクロダイセクションにより層ごとに約1000細胞ずつ回収した。同様に左右半球を結ぶ2/3層および5層の交連ニューロンも約1000細胞ずつ集めた。これら5サンプル間の遺伝子発現プロファイルをDNAマイクロアレイ法により比較し、長連合ニューロン特異的遺伝子の候補を層ごとに100種類ずつピックアップした。これらの遺伝子のうち発現量の高いものから優先的にin situ hybridizationによって大脳皮質における発現パターンを解析した。その結果、長連合ニューロンに特徴的な分布と合致する層特異的発現を示す遺伝子が得られている。今後、これらが実際に長連合ニューロンに発現していることを確認し、そのプロモータを用いて長連合ニューロンとその軸索を標識する実験を進める。
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