研究概要 |
本研究の目的は,高次脳機能障害のリハビリテーション(評価および訓練)において,バーチャル環境を用いることの有効性を検討することである.バーチャル環境を用いると室内に居ながらにして日常生活の様々な場面を再現することができ,注意や記憶に低下を呈した高次脳機能障害者や高齢者の能力評価・生活訓練を安全かつ効率的に行える可能性がある.平成23年度は,高次脳機能評価用に開発したVR検査を用いて以下の研究成果を得た. (1)脳損傷者と健常者を対象にVR検査と既存の神経心理学的検査・質問紙を実施した結果より,VR検査は脳損傷者の高次脳機能評価に適応でき,その所見は展望記憶や全般性注意と関連があることが示唆された(岡橋ら,2012). (2)失語症者と非失語症者を対象に簡易版VR検査と既存の検査を実施した結果,失語症者は自らヒントを有効活用できないが,本検査を最後まで遂行できた.その所見において言語機能の影響は否定できないが,失語症者の注意や遂行機能を評価できる可能性が示された(小罵ら,2012). (3)その他,難度が高くなるよう改良したVR検査を用いて軽度認知障害(MCI)の検出を試みた調査,および健常者における年代別成績の比較調査を行った.これらの調査結果については国内学会にて発表した. (4)来年度の中心的計画であるVR検査の生態学的妥当性の検証を始めるにあたり,京都大学医の倫理委員会の承認を得た.現在予備実験を開始しており,その後本格的に研究を実施予定である. 本年度の研究成果は平成24年度に展開する研究の基盤となるものであり,バーチャル環境を用いた高次脳機能評価の臨床応用に向けた可能性が示された.室内で簡便に用いることのできる有効な手段として確立することが今後期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
失語症者を含む高次脳機能障害者,高齢者を対象とした調査より,上記の知見を得ることができた.これは,平成24年度以降の研究の基礎となるものであると考えられる.来年度の研究実施計画については既に所属機関の倫理委員会の承認を得ており,研究機材についても整い,おおむね順調に研究が進められている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,開発したリハビリテーション機器の生態学的妥当性の検証を中心に研究を進める.その際,脳損傷による高次脳機能障害を有する者だけでなく,地域在住の高齢者も対象としより幅広く,汎用性のある機器となることを目指す.さらに,臨床応用しやすいものとなるよう使用時の使いやすさや分かりやすさ等,使用者の立場に立った検討を加えたいと考える.
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