研究課題
本研究では近赤外分光法に基づくケモメトリクス(計量化学)的なアプローチによって木質考古試料の非破壊材質推定および経年変化のトレースを高時間分解で行い、近赤外考古計測学という新しい学問体系の確立に挑む。長野県遠山郷で採取されたヒノキ埋没木の年代を年輪年代法によって決定した後に、試料を放射方向に一定間隔で連続切削し、波長800-2500nmの近赤外拡散反射スペクトル(説明変量)および各種物性値(目的変量)を測定する。これらを多変量解析することによって、密度・平衡含水率・セルロース結晶構造・強度的性質・主要化学成分比率の高精度推定を試みる。今年度は「埋没木サンプルの結晶性評価」、「気乾状態サンプルの近赤外スペクトルの測定」および「小片木材の曲げ強度測定機器のセットアップ」を行った。これにより、経年変化による結晶性および近赤外スペクトルの変化を高い時間分解能で知ることができた。今後、これらの変化と24年度に測定を行う強度的性質や化学的性質の変化との関連をケモメトリクス的手法を援用して詳細に観察する。ここまでの結果で特筆すべき成果は、産地、年代の明らかで、なおかつ同様の条件下で保存された試料の結晶性および近赤外スペクトルの変化を高時間分解で測定できた点にある。これまで、ヒノキ材の経年による強度的性質の向上は結晶化度の増加に関連付けられていたが、本結果によってその妥当性を検証することができる。さらに次年度に強度的性質や化学的性質を測定することにより、強度変化に及ぼす要因の抽出を行うことができる。
2: おおむね順調に進展している
今年度10月から3月にかけてカナダUNBC大学に長期滞在し、木質材料の解析のための新たな分光法(テラヘルツ時間領域分光法)の適応可能性を検討した。上記理由から今年度の後期6カ月間では日本での測定が行えなかったため、今年度の成果はおおむね当初の計画通りにとどまった。
研究はおおむね順調に進展しており、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点は無い。平成24年度は、NIRスペクトルを測定した試料を曲げ試験に供し、弾性曲げヤング率および曲げ破壊強度を測定する。必要に応じて、クリープ試験・硬度試験等その他の強度的性質についても測定を行う。強度測定が完了した試料の一部を重水素置換法用に薄片にし、残りを粉砕し化学分析に供する。ホロセルロース、αセルロース、クラソンリグニン比率をそれぞれJISに順じ算出する。それら結果を用いて検量線を作成し、予測精度の評価を行う。
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WOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY
巻: 46 ページ: 143-155
10.1007/s00226-010-0379-6