研究概要 |
長野県遠山郷で発掘された木曽ヒノキ埋没木(6個体)の年代を年輪年代法によって決定した(AD200-1900)。これらから5mm(放射方向)×10mm(接線方向)×100mm(繊維方向)の試料を連続的に130検体切り出し、各種測定に供した。試料をデシケータ(五酸化二リン)内に1カ月静置して全乾状態とし、全乾密度、近赤外反射スペクトル(分光器:Matrix-F, Bruker、波数領域: 10000-4000cm-1、分解能: 8cm-1, 積算回数: 32scans)および曲げ弾性率(MOE)を測定した。最後にX線回折測定を行い、結晶化度および結晶幅を求めた。 ヒノキ埋没木(年輪年代:AD395, AD578, AD1794)の近赤外反射スペクトルの観察からAD395の埋没木にのみ、5896cm-1付近に特徴的な吸収ピークが存在することがわかった。この領域はCHの第一倍音に由来する吸収帯である。7000cm-1付近の吸収はセルロース非晶領域、6460cm-1および6300cm-1付近の吸収はセルロース結晶領域に帰属されるが、経年によって「セルロース非晶領域と結晶領域の比率(7000cm-1における吸光度/6460cm-1における吸光度:A7000/A6460)」が増加した。また、これら二つの吸光度情報間には、高い負の相関関係が認められた。5896cm-1の吸収帯の増加はセルロースの分解に伴って生じるフミン質に由来することが示唆される。さらに、気乾埋没木の近赤外スペクトルから、PLS回帰分析を用いて、試料の各種物性値を予測したところ、十分な決定係数および予測標準誤差で予測が可能なことが示された。
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