本研究は、高齢者の転倒防止に重要な姿勢方略である後方へのステップ反応時の力学的要因と脊柱形態・可動域の加齢変化との関連性を明らかにすることを目的とした。地域在住の高齢者16名、若年者10名の脊柱形態および椎体間可動域を、脊柱計測分析機(スパイナルマウス;Index社製)を用いて計測した。加えて、本学既設の3次元動作解析装置とフォースプレートを同期して用い、外乱刺激による後方へのステップ反応時の身体動揺特性と下肢関節が発揮する関節モーメントを計測した。 本年度(H24年度)は、脊柱形態と静止立位時の身体重心動揺との関係、さらに、後方向へのステップ反応時、とくに衝撃の大きなステップ着地時の身体動揺特性や関節モーメントとの関係について解析した。本研究の結果、脊柱形態と静止立位時の身体重心動揺との相関分析から、胸椎後彎角度と前後方向の身体重心動揺速度との間に有意な正の相関関係を認めた。また、脊柱可動域とステップ着地時の身体動揺特性との相関分析から、前後方向への身体重心動揺量と第11・12胸椎間および第5腰椎・第1仙椎間の伸展可動域との間に有意な負の相関関係を認めた。加えて、後方ステップ着地時の身体重心動揺量と、着地時に発揮される足関節底屈モーメントの間に有意な負の相関関係を認めた。 本研究の結果から、胸椎の後彎角度の増大が、静止立位時における前後方向の不安定性に関与している可能性が示された。加えて、脊椎彎曲の変曲点である胸腰椎移行部(第11・12胸椎)および腰仙椎移行部(第5腰椎・第1仙椎)の伸展可動域が、ステップ着地時の衝撃吸収に関与している可能性が見いだされた。これらの知見は、高齢者を対象とした運動プログラムの立案および実施における科学的な根拠として、応用が可能と考える。
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