本研究の目的は、教育の国際的潮流であるESD(持続可能な発展のための教育)と地理教育の可能性を探るため、ESD先進国であるドイツのESD地理教育を究明することである。2012年度は、ESDに関する文献調査および教育実践に関するヒアリング調査を日本国内で行うとともに、ドイツにおける文献調査、教育実践見学、学校教員へのヒアリング、研究者との意見交換を行った(2012年8月実施)。 2011年度の研究に基づき、2012年度は主にシステム学習理論に着目して研究を進めた。特にESDにおける地理教育の役割と位置付けに関する研究において、システムという概念は大きな役割を果たしていた。先行研究から重要だと判断されたESDにおけるシステム思考と、地理教育における人間―環境システムを取り上げ、それらの特徴および両者の結節点について研究を進めた。前者については、キール大学の研究を追い、システムという概念を操る能力をシステムコンピテンシーとして開発が進められていた。後者に関しては、当該概念の歴史的変遷からその意義について明らかにした(紀要別冊に掲載)。ドイツでは近年、両者を結びつけた地理システムコンピテンシーの研究が盛んに行われており、そうしたドイツ地理教育研究の動向をレビューした(論文執筆中)。 日本型の「人間―環境システム論」の展開については、日本の理科・社会科という教科構造に基づき、教科横断的なアプローチを採用し、副読本において「石灰岩と生活」のシステムについて分担執筆した(糸魚川副読本に掲載)。また、「持続可能性」についての高等教育機関レベルでの教育については、ベルリン大学およびアイヒシュテット大学のカリキュラムの分析から、概念的な理解は促進されるものの、行動へと結びつける点に関しては一部不明瞭な点も見られた(学術研究に掲載)。
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