研究概要 |
血管は加齢とともに硬化する。この加齢による動脈硬化は、中高齢者では心疾患や脳卒中などの生活習慣病の危険因子である。今まで、動脈硬化は成人期以降に起こると考えられていたため、子どもを対象とした動脈硬化に関する報告はほとんどない。成長期の中でも特に第二次性徴期には、身体的、内分泌的、精神的に特徴的な変化が生じる。そこで本研究は、発育・発達に関連した動脈硬化度の変化を明らかにすることを目的としている。本年度は,精神面(思春期特有の不定愁訴)及び運動能力と動脈硬化度の関連性を明らかにした。成人では,メンタルストレスによる血圧の上昇は,高血圧や心血管イベントと相関があることがわかっている。先行研究では小中学生の80%以上が何らかの不定愁訴の症状があり,そのうち半数は3個以上の症状を持っていると報告している。そこで,思春期においても不定愁訴の訴えと血圧及び動脈硬化度に関連性があると仮説立て検証した。小学6年生から中学3年生の321名を対象に調査したところ、第二次性徴期の子どもでは、不定愁訴の訴えと動脈硬化度及び血圧の関連性は低い可能性を示した。この結果は、第二次性徴期の子どもでは、十分な血管の柔らかさが不定愁訴の訴えによる循環器系に及ぼす影響を緩和さえている可能性を示唆している。一方体力面では,成人を対象に,全身持久力と動脈硬化との関連は数多くの知見があり、柔軟性と動脈硬化と関連しているとの報告もある。そこで、中学生72名を対象に動脈硬化度と柔軟性、握力との関係を調べた。男女ともに動脈硬化度と柔軟性、握力に相関関係は無かった。中学生においては、柔軟性及び握力が動脈硬化度に及ぼす影響は低いことが示唆された。本年度までに研究遂行のためのデータ収集をすることができた。今後は、身体的及内分泌的な変化と動脈硬化度との関係を検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに,横断的に第二次性徴期の子どもの動脈硬化度を,身長及び体重などの身体面,アンケート調査を用いて不定愁訴を指標とした精神面,エストロゲン及びテストステロンを指標とした内分泌面から評価するのに十分な測定データを収集することができたと考える。今後は、得られたデータの分析及び解析を行い、結果を公表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,身体面及び内分泌面と動脈スティフネスの関連性についてまとめ,学会及び論文発表を行う予定である。さらに研究を発展させるため,縦断的評価ができるよう,データの収集を行う予定である。これらの結果をもとに、子どもから生涯を通じて行う生活習慣病予防対策や、子どもから派生する家族全体の健康づくりが推進できるよう、子ども及びその保護者向けに生活習慣病予防のための啓発リーフレットを作成する予定である。
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