本研究は,二次性徴中の子どもを対象に,動脈硬化度の指標であるbaPWVを用いて,成長と動脈硬化度の関連性を明らかにすることを目的としている。本年度も引き続き,中学生を対象にbaPWVの測定等を行い,横断的及び縦断的に必要なデータの収集を行った。本年度は二次性徴の特徴的な変化である,性ホルモン分泌量の増加及び身体の発育と動脈硬化度の関連を調べた。女性ホルモンのエストロゲンは,血管の拡張・弛緩作用があり,そのため成人女性は,閉経まで男性よりbaPWVが低値を示すと考えられている。そこで,中学生を対象に,性ホルモンの分泌量がbaPWVに及ぼす影響を検討した。男子のbaPWVとエストロゲンに有意な正の相関関係を示したが,女子のbaPWVとエストロゲンには相関を示さなかった。男女ともbaPWVとテストステロンに相関はなかった。このことから,性ホルモンが二次性徴中のbaPWVに及ぼす影響は小さいことが示唆された。次に,身体発育がbaPWVに及ぼす影響を検討した。男子では学年があがるごとに身長及び体重,baPWVは増加した。女子では身長体重は増加するが,baPWVは変化を示さなかった。男女で比較すると,女子のbaPWVは男子より有意に高値を示した。男子では,体重とbaPWVに有意な正の相関関係を示した。さらに中学生のbaPWVを縦断的に検討したところ,男子ではbaPWVの変化率と身長の変化率に負の相関関係があった。これらの結果から,性ホルモンは二次性徴中の子どものbaPWVへの影響は小さく,baPWVは加齢に伴い増加するが,これは発育発達に伴う生理的増加であることが示唆され,身体発育時期と循環器の発達の変化時期にはずれがあることが予測される。一方,成人と異なり女子のbaPWVが男子より高値を示したことは,第二次性徴発現時期のずれが影響していると考える。
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