本研究では、実験Iとして、ランニング時の活動筋酸素動態について、通常および低酸素環境(高度2800m相当)で比較した。7名の持久性種目を専門としている被験者はトレッドミル走による漸増速度運動を疲労困憊に至るまで実施した。近赤外分光法に評価による外側広筋の脱酸素化は運動強度の増加に伴い亢進を続けたが、腓腹筋の脱酸素化は中程度強度より停滞した。また、低酸素により外側広筋、腓腹筋とも脱酸素化が有意に亢進した。低酸素による最大酸素摂取量(VO2max)の低下率と腓腹筋の脱酸素化変化率との間に正の相関が認められた。これより、低酸素環境下でのVO2max低下は活動筋の酸素状態が関係している可能性が示唆された。 実験IIとして、低酸素環境が長時間ランニング運動時の筋内脂肪酸化量に及ぼす影響について、同一絶対・相対運動強度で検討した。被験者は実験Iより算出されたVO2maxを元に、低酸素環境下において65%VO2maxでの90分ランニングを実施した。また、それと同一相対・絶対運動強度の90分ランニングを通常酸素環境下で実施した。その結果、同一相対運動強度の比較において、低酸素環境では酸素摂取量(エネルギー消費量)が低下し、脂質酸化量は低下傾向を示した。一方、同一絶対運動強度の比較において、低酸素環境では呼吸交換比が増加し、脂質酸化量が有意に低下した。プロトン磁気共鳴分光法により評価された下腿筋群の筋細胞外脂肪は運動により変化しなかった。一方、筋細胞内脂肪は運動により3条件とも有意に低下したが、その変化量は同一相対・絶対運動強度の比較とも低酸素環境が有意に低値を示した。実験IIの結果、低酸素環境下において、全身の脂質酸化量が低下するだけでなく、筋細胞内脂肪の利用も低下することが明らかとなった。
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