大腸癌の進展に伴い核膜孔複合体の構成成分であるNup88と核ラミナの構成成分であるLaminAの発現上昇が認められ、それらは予後不良マーカーとなることが報告されている。また大腸癌患者の約85%の症例で、Wntシグナル抑制因子であるAPCの変異が認められる。Wntシグナルの活性化が腫瘍形成に重要な役割を果たすと考えられているが、Wnt経路の重要な転写因子であるTCF-4とLEF-1は、核膜孔複合体と核ラミナにそれぞれ結合することが報告されている。本研究計画では、Nup88、LaminAとWntシグナルの関連について検討した。浸潤性の腸がんを発生するcis-Apc/Smad4複合変異マウスの腸がん組織と正常腸管でのNup88とLaminAの発現量をNup88に関しては、定量的PCR、LaminAに関してはウエスタンブロティングにて比較検討したところ、腸がん組織と正常腸管では、有意な発現量の変化は認められなかった。またWnt活性をモニタリングできるHEK293細胞に、Wnt3aリガンドを添加したところ、Wnt活性は有意に上昇したが、Nup88とLaminAの発現量の大きな変化は、ウエスタンブロティング解析では、認められなかった。またAPCとCTNNB1に変異がそれぞれ確認されているヒト大腸がん細胞株SW480、HCT116細胞において、優性変異体TCF-4の強制発現は、Nup88とLaminAの発現に有意な影響を与えなかった。現在までのところ、Wnt経路がNup88やLaminAの発現に対する重要な役割を示唆する生物学的所見は認められていない。
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