【背景および目的】遠隔臓器で短時間の虚血-再灌流を繰り返すプロセス、すなわちRemote Ischemic Preconditioning(RIPC)は、心筋への虚血耐性を引き起こし、心筋保護作用を有する。このRIPCのメカニズムとして、自律神経系を介した心筋保護作用の関与が考えられているが、心臓の自律神経活動を直接計測した報告はまだ無い。初年度、既に申請者はRIPCが心筋虚血早期における心臓交感神経終末からのNE放出を抑制することを示している。本年度は、前述した心筋虚血早期におけるNE放出の抑制がRIPCによる心臓交感神経の機能変化によるものであるのかどうかについて検討した。【方法】麻酔下ウサギの気管挿管後、頸静脈に挿入したカテーテルを介して持続的に麻酔を投与し、全身動脈圧を頸動脈で測定した。開胸後、心嚢膜を切開して心室壁に透析用ファイバーを2本植込み、injection pumpにてリンゲル液を2μl/minの速度で灌流し、他端からmicrofraction collectorにて透析液を連続的に採取した。コントロールサンプルを回収後、RIPCを4回行い、5分毎にRIPC中のサンプルを連続回収した。RIPC終了後、KCl(100nM)を局所投与し、心臓交感神経終末からのNE放出を誘発させ、RIPCを行わないsham手術のみの結果と比較検討した。【結果】RIPC中の心筋間質NEに有意な変化は認められなかった。また、RIPC終了後におけるKClによって誘発された心筋透析液NE濃度についても、sham群と比べて有意な差は認められなかった。【総括】RIPCによる心筋虚血早期における心臓交感神経終末からのNE放出の抑制は、心臓交感神経の機能変化によるものではなく、別のメカニズムが関与している可能性が示唆された。
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