大学を中心とする公共部門における「科学生産」はイノベーション・システムの根幹を形成している。本研究では、科学生産のアウトプットとして知識資本と社会関係資本の2点に着目し、インプットとしての研究資金および研究者人材の配分が及ぼす影響を検討することを目的とした。具体的には平成23~24年度前半にかけて以下に述べる3研究テーマを遂行した(後続の計画は24年度より若手研究Bに移行)。(1)研究資金の配分政策:科学技術投資に関する先行研究においては、研究資金データの未整備のために特に個人レベルでの詳細な分析が限定されていた。そこで本研究では国立情報学研究所の提供する科研費データベースを基に独自の研究費データベースを構築した(具体的な分析は後続の研究課題において実施予定)。(2)研究者人材のキャリア設計:日本人研究者を対象とした質問票調査及び経歴情報を用いてキャリアデータベースを構築し、以下の分析を実施した。(a)まず研究者人材の配置の制度的特徴を見出すために日本と欧州数ヶ国との間で研究者の移動特性を分析した(欧州の共同研究者との共同研究による)。(b)続いて、特にセクターを横断する研究者移動に着目し、大学研究セクターからの退出に関わる環境因子を特定すると共に、退出と科学生産との関連を分析した。(c)さらに世代間の研究者人材の移動に着目し、研究室レベルでの世代交代方式が及ぼす科学生産への影響を分析した。(3)社会関係資本形成:数理モデル及びシミュレーションを用いて社会関係資本の生産モデルを構築し、近年の科学技術政策に関する制度・環境変化の影響を予測し、これを質問票調査に基づき検証した。以上(1)~(3)の論点は相互に関連することから、後続の計画では総合的なモデルを構築する予定である。
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