本研究の目的は江西省ポーヤン湖と湖南省洞庭湖という中国の二大淡水湖における漁村社会の変容を調査し、変容のプロセスの地域的な共通性と相違性を導きだすことである。村落の変容を理解することは変容のどの段階でどのような環境問題が発生するのかを検討する際の判断材料にもなり重要である。本研究では村落の変化を客観的に捉えるために10の分野からなる都市化指標を開発し、それを用いて漁村社会の生活・生業様式の変化を捉えた。 村落の変化を具体的にみてみると淡水湖周辺の漁村のなかには都市化指標の指数が急激に上昇するところがあった。これは、国家や地方政府主導による新農村建設や観光開発が影響していた。また、近年、「生活」関連の指数が上昇している村落が多い。これは、中央政府主導で農村のトイレを衛生上安全なもの(無公害衛生厠所と呼ばれる)に造りかえる改厠政策や、農民・漁民が家電を購入する際に価格の一定割合を国家が補助する家電下郷政策が実施されていることを関係していた。 平成23年度は江西省ポーヤン湖の漁村を対象にインテンシブな調査を実施した。 平成24年度は湖南省洞庭湖の漁村を対象に現地調査を実施した。調査対象の洞庭湖のQ村は人民政府主導による「漁民上岸定住解困プロジェクト(漁民を陸上に定住させ、生活困窮を解決する)」が実施されている。地方政府は新農村建設の一環としてまず上・下水道を整備し、村内外を結ぶ道路をコンクリート化した。その後、室内トイレや浴槽、水道、電気などを完備した平屋の住宅を建設した。この結果、調査村ではまず「衛生」分野の指数が上昇した。その後、漁民たちが家電下郷政策を利用して各種家電を購入したことで「住宅」分野の指数も上昇した。こうした定住政策により調査村は短期間で指数が倍以上になった。政府主導の定住政策とそれに伴う指数の上昇は湖南省洞庭湖周辺のほかの村落でも確認できた。
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