本研究の3つの研究課題のうち、2012年度は「都市部男性と農村部男性の階級的マスキュリニティ」に取り組んだ。 稼得者の地位から「降りた」女性移住労働者の男性配偶者は、都市部男性から宗教的に非男性として記号化され、侮蔑の眼差しを向けられている。この言説は農村男性にどのように捉えられているのか、送出し地域でのインタビューを中心に調査をおこなった。妻に経済的に依存している男性は、家事労働者として就労する妻に向けられた「ドサ」や「ハラム」といった宗教的スティグマを受容していた。「湾岸諸国で就労する家事労働者」という職業が規定する性的スティグマを受け入れることで、喪失した家父長的権力の埋め合わせをおこない、男性優位性を保とうとしていたのである。また宗教指導者は、上記のスティグマを追認し宗教的正当性を付与する一方で、家父長制的権力を喪失した男性家族へは世帯内での男性の優位性や指導的立場を説いていた。移住労働女性自身による自己規制やスティグマの消極的受容と合わせ、送出し社会におけるジェンダー関係再生産の構造を明らかにした。また本調査結果を国際ジェンダー学会で報告した。 そのほか男性性の欠如に関する言説について都市部男性へのインタビュー調査を実施した。ジャカルタ中心部で「新しい男性の連帯」運動を展開する設立者への聞き取りからは、移住労働女性に経済的に依存する男性家族に対して、不就労に興じているとして批判的見解が得られる一方で、その暴力的発露に対しては疑問が提示されヘゲモニックなマスキュリニティへの男性側からの抵抗の兆しがみてとれた。 以上二つのインタビュー調査から得られた知見を、the 11th Asia Pacific Sociological Association Conferenceにて報告した。
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