研究概要 |
本研究では,統合国際深海掘削計画(IODP)によって,2009年にベーリング海で採取された過去約400万年分の海底堆積物コアのネオジム・鉛同位体分析を通して,過去400万年間にベーリング海周辺の太平洋高緯度域が被った環境変動を読み取ろうとするものである。特に,約400万前は,21世紀後半に予想される気温や大気CO_2濃度となっていた時代であり,地球化学的なデータから当時の環境状態を復元することで,将来の温暖化地球像を詳細に把握することができる。しかし,約400万年前の北太平洋高緯度域の環境状態ほこれまで十分に理解されていないため,IODPベーリング航海で得られた海底堆積物試料は,北太平洋高緯度域の環境状態を明らかにすることのできる唯一の試料と言える。 本年度は,ベーリング海南部で採取されたU1341Bコア(0-430万年分)を対象とし,砕屑物のネオジム・鉛同位体分析(計200試料)を行った。得られたネオジム・鉛同位体データから,砕屑物の起源として,アリューシャン列島起源の砕屑物とユーコン川を通じて供給されるアラスカ起源の砕屑物で構成されることが明らかになった。また,この2つの砕屑物の混合割合は,全球的な気候変化(氷床量の消長)と非常によく一致していた。特に,ユーコン川上流には山岳氷河が発達しているため,氷期と融氷期には,氷河の融氷に伴ってアラスカ由来の砕屑物の寄与が50%を超えている。また,アラスカ由来の砕屑物の寄与は,270万年を壌に急増し,北半球氷河化時期と一致していた。しかし,アラスカ由来の砕屑物の寄与の最初の増加は,420万年前に認められるため,既にこの時期にアラスカ山岳部では小規模ながら氷河の蓄積・融氷が起こっていたと解釈される。時間的な一致から,パナマ海峡の閉鎖に伴う,子午面循環の活発化が全球的な水循環レジムの壊変を促し,アラスカへの水蒸気輸送の増加を引き起こしたと考えており,現在この仮説を精査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
U1341Bコア(0-430万年分)を対象とし,砕屑物のネオジム・鉛同位体分析(計200試料)を行い,現在,成果を取りまとめ,論文化作業を進めている。これまで報告のない新規のデータから,目標としていた古環境状態を推察することができたため,おおむね順調に研究計画が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では,ベーリング海で採取された4つの堆積物コア試料の分析を提案していたが,申請時の予算が交付時に削減されたため,4つの堆積物コア試料の分析に係る試薬等の消耗品費が捻出できなくなった。そのため,U1341コアとU1344コアを中心として解析を進め,可能であればU1340コアもしくはU1342コアの分析解析を進めて行く。
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