研究課題/領域番号 |
23810010
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小林 重人 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 助教 (20610059)
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キーワード | サーキットブレーカー / 制度設計 / 株式市場 / 知識処理機構 / ミクロ・メゾ・マクロ・ループ / 貨幣意識 |
研究概要 |
本研究は,株式市場の安定化を図る制度であるサーキットブレーカー(以下,CB)制度の効果的な設定条件と運用について,「運用による効果の違い」「制度変化の制約条件」「価値意識の制度形成への影響」の3つを明らかにするものである.まずCB制度がいかなる理由で変更されたかを明らかにするために,東証と大証の取引所史を調べ,現在までのCB制度の変遷過程が,先物価格の暴落と関係することを見出した.この変遷はアメリカのCB制度の変遷とも一致するものであり,CB制度が変化する要因のひとつと考えられる.さらにマクロとミクロとCB制度の3者のループによる制度変化の過程を理解するために,知識処理機構とif-thenルールという概念を用いた通時的なモデルによる説明を試みた.これにより,ミクロ主体と取引所はそれぞれの知識処理機構が有するif-thenルールに対する重みを入力と出力の強化学習によって変化させることで,状況適応的な知識を産出していると見ることができた.加えて,ミクロ主体と取引所は動的な相互規定関係を形成しており,ミクロ主体の判断が取引所の判断に影響を与え,取引所の判断がミクロ主体の判断に影響を与えるというループを形成することで知識を産出していることを示した. 価値意識が制度形成へ与える影響を調べるために,日本・イタリア・ブラジルという異なる貨幣制度下における人々の貨幣意識を調査しその比較を行った.貨幣制度の違いは,貨幣の多様性という因子との相関が強いことが示された.とりわけ法定通貨と地域通貨が併存している地域では,貨幣の多様性を是認する傾向にあった.他にも,公共性・公平性,利益志向という因子も,経済環境や国民性だけではなく,貨幣制度が影響していることがわかった.つまり制度の多様性は,人々の価値意識と強く結びついており,ここからCB制度の形成も人々の価値意識と相関が高いことが示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象としていた証券取引所が合併した影響によって,取得予定としていたデータが得られにくくなり,インタビュー調査に遅延が生じている.しかしながら,貨幣意識調査は順調に実施されており,サンプル数も十分な分量を確保している.また,研究協力者である北海道大学の西部忠教授との打ち合わせ,および連携も順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
目的としている3つの分析のうち,「制度変化の制約条件」と「価値意識の制度形成への影響」については順調に進んでいるため,研究リソースの配分を遅れている「運用による効果の違い」に注力することにする.CB制度の運用の違いを調べるための人工市場実験を加速させる.概念モデルの形成が既に済んでいるため,プログラムの実装に時間を注ぐこととする.その際に,同種のシミュレーションの実装経験が豊富な本学の研究員からの助言を得ることで,実装の時間を短縮させる.
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