2011年3月の東日本大震災をはじめ、近年過疎・高齢化地域における大規模災害が頻発している。本研究は災害被災者の「生活の復興」に向け、被災者がどのような医療・福祉等の生活問題を抱えているかを明らかにし、それを克服する体制が現時点でどのように構築されているか考察した。 研究の方法は、以下の3つである。第1は、災害被災地の住民、医療・福祉専門職、行政、復興に取り組む諸団体へのヒアリング調査である。東日本大震災では、行政や、自治会等の住民組織が多大な被害を受け、長期の避難生活、地区住民の離散等によって被災者・住民が疲弊している。医療・福祉へのアクセスが阻害され、住民同士の自助や共助が困難な現状が明らかとなった。 第2は、災害及び医療・福祉等の被災者の生活保障に関係する制度・政策動向の分析である。国の医療・福祉及び復興政策は自助や共助を重視しているが、住民の自助や共助が限界に達している現実と政策動向の間にミスマッチが生じている実態が明らかになった。 第3に、日本の被災者生活保障政策を客観的に評価するべく、海外の災害被災国の防災及び復興施策の調査を行った。具体的には、ハリケーン対策や国民の平等な医療へのアクセスを保障したプライマリ・ヘルス・ケアで世界的に高い評価を得ているキューバ共和国と、スマトラ島沖地震で津波被害を受け、高台移転の問題を経験しているインドネシア共和国である。キューバでは公的医療体制が災害時の人的被害を最小限にとどめる効果を発揮し、インドネシアでも災害を契機に医療保障制度を拡充している。 日本の「復興」施策は、インフラ等のハードの再構築を中心に行われてきたが、被災者の「生活の復興」のためには、国の社会保障制度による生活保障が不可欠である。今後も被災者の生活再建の段階に応じて生活問題を把握し、社会保障制度及び政策の改善すべき点を明らかにする継続的取り組みが課題である。
|