近年、人々の健康及び疾病に対する関心が多岐に亘り、殊に医薬品等に対する安心・安全の志向が高まっている。それに伴い漢方処方の適用拡大が進み、薬用植物の需要が急激に増えている。近年、植物細胞において脂質ラフトの存在が示唆されているものの、植物脂質ラフト構成成分の生体膜における影響等詳しい知見に乏しい。そこで当該研究では、Langmuirの単分子膜法を用いて生体膜に及ぼす植物脂質ラフトの影響を解明することを目的とする。 植物脂質ラフトは、種々の植物ステロールとスフィンゴ脂質に富んでいる。その植物ステロールには、ステロール骨格を有するステロール誘導体とそれらの配糖体及びアシルエステル化体の存在が認められている。植物ステロールは、コレステロールと構造が極めて類似するため、腸管吸収における競合阻害により血中LDLコレステロール値の低下をもたらすことが示唆されている。そこで、植物脂質ラフトの構成成分であるコレステロール誘導体[シトステロール(SITO)、シトステリルグルコシド(SG)、パルミトイルシトステリルグルコシド(SGP)]と動物脂質ラフト生体膜成分であるパルミトイルスフィンゴミエリン(PSM)との相互作用をLangmuir単分子膜手法により用いて解析した。その結果、PSMは、3種のステロール誘導体と混和挙動を示し、その相互作用の強度はSITO>SGP>SGであることが判明した。コレステロール(CHOL)とPSMとの相互作用(CHOL-PSM)を検討した結果、CHOL-PSMは、SITO-PSMと同じ強度であることが判明した。このことは、CHOLが競合阻害されSITOが腸管吸収されても生体膜に及ぼす影響がほとんどないことを意味する。本研究によりPSMを生体膜モデルとしたステロール誘導体の界面科学的挙動を明らかにした。本成果は、現在学術誌に投稿中である。
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