本研究の目的は、バイオMEMSと一分子生物物理双方の知見と技術を融合したハイスループット一分子操作・計測デバイスを開発することである。本年度は、昨年度de Gennesの法則を用いて算出した、DNAが一本だけ挿入され、適度な伸長度合いを保つナノチャネルの幅と高さ、またはDNAが一本も挿入されないための最大企画等の予測値をもとに、デバイスの製作、改良を行った。加工したシリコン基板とガラス基板とをボンディングすることにより、マイクロチャネルとナノチャネルやナノスリットを組み合わせたデバイスを製作した。ボンディング前のガラスの表面処理方や、DNA実験に最適なチャネルの幅、高さ、長さなどのパラメタの最適化を行った。そのデバイスを用いた検証実験では、当初予定していた、マイクロチャネル内へλDNA分子(長さ15 µm)を、空洞の親水性ナノチャネル(幅100 nm、高さ100 nm)内へ1本ずつ、毛管力(キャピラリーフォース)により無動力で進入させる方法では、多様なDNA操作や溶液交換をなどの実験を行うことが難しかったため、HPLCポンプを用い、ナノチャネルへ圧力をかけ、DNAを挿入、操作、観察する方法をとった。 DNAのナノチャネル内での操作、観察手法の確立は、DNA結合タンパク質とDNAとの相互作用など、生物学や生物物理学の分野において重要な課題の中の一つである。これらの生物学実験は、腫瘍学などとの関連から医療の分野からも注目を集めてきている。このように当研究は他の学術分野に影響を与える純粋科学的価値のある研究成果を生み出すのみならず、人工DNA修復技術、癌治療、遺伝病治療などの新技術の創生のためにも大変重要な知的資産を形成する可能性を秘めている。
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