平成23年度において、本研究では主に史料収集に力点を置いた。近年の宋代史・元代史研究は、これまで注目されてこなかった新史料の存在を学界に多く紹介したが、いまだ利用の便が整っている史料は少なく、また未紹介の史料も多く日中両国の漢籍収蔵機関に眠っているからである。とくに平成23年度のテーマである南宋軍閥研究、および公田法研究では既存の史料では絶対的に不足であり、これを克服するためには日中両国で史料収集に従事することは不可欠であった。その結果として、本研究に利用できる多くの史料を収集することに成功した。まず東京の静嘉堂文庫においては、欠名『中興両朝編年綱目』・呂中『皇朝中興大事記』の調査を行った。この二史料はすでに寺地遵氏によってその存在が指摘されていたが中国でも収蔵している機関はほとんどなく、今回の調査で二史料を複写できた意義はきわめて大きい。とくに後者の史料は南宋嘉定年間におけるモンゴル・南宋間の外交について、従来未知であった事実を伝える史料が含まれており、南宋における軍閥発生を考えるうえでも大きな意味がある。同機関の欠名『宋遺民広録』も、宋元交替を挟んだ軍閥のその後を考えるうえで重要と思われる。また北京大学図書館においては、石刻史料「四川制置使司給田公據」の拓本の撮影を行った。本史料は南宋軍閥の具体的な行動を示すものとして注目される。さらに公田法研究については、北京の中国科学院国家科学図書館において陳恬『上虞県五郷水利本末』の調査を行った。この史料は陳高華氏によって紹介されているがこれを利用した本格的な研究はほとんどなく、宋元交替における公田法の影響を考えるうえで重大な手がかりになると思われる。以上は成果のごく一部であるが、これらの調査によって本研究は進展のための大きな手がかりをえたことを特筆しておきたい。
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