本研究は、近世の幕藩制改革と儒学の関係を問うことで、近世の政治思想を明らかにするものである。研究には3つの柱をたてた。(1)大老・堀田正俊の政治思想研究。(2)「御家」の思想と民政思想の研究。(3)戊辰戦争における越後長岡藩の武装中立、および、家老・河井継之助の思想研究である。この柱を追究するのに、以下の対応する研究計画を建てた。(1)千葉県佐倉市日産厚生会佐倉厚生園によるマイクロフィルム「堀田家文書」238リールの活用、および、佐倉市の堀田正俊子孫の堀田家文書、千葉県立佐倉高校の「鹿山文庫」の史料調査。(2)新潟県長岡市・長岡市立中央図書館、および、文書資料室の史料の活用。とくに、秋山家文書・嶺家文書・相沢家文書・横山家文書、また、寄託史料の佐藤家文書の調査・閲覧・撮影。(3)各藩・大名家の研究者との意見交換、研究会への出席。 まず、(1)に関して、一橋大学附属図書館所蔵の堀田家文書のうち、朝鮮通信使に関する史料を使い『日韓相互認識』(第5号、2012)に論文「天和度朝鮮通信使と大老・堀田正俊の「筆談唱和」」を発表し、東アジアにおける近世日本の儒学、領主思想の一端を明らかにした。(2)に関しては、昨年10月に群馬県在住の秋山景山の子孫・秋山綽家の原文書を悉皆調査し、貴重な発見をし、その史料をもとに、『書物・出版と社会変容』(第12号、2012)に「越後長岡藩儒・秋由景山の『教育談』について」を発表し、近世武士教育のあり方を考察した。また、今年3月に長岡市の文書資料室において、上記の文書群の調査とともに、割元・鈴木家の史料調査を開始している。日記が多いので、民衆上層からみた幕末期の長岡藩の動向がわかる点で、貴重な史料である。(3)に関しては、加賀藩研究ネットワークの大会報告に参加、尾張藩社会研究会に2度参加、および、鹿児島藩島津家の調査のため出張し、報告を聞き、また質疑応答で意見交換をし、着実に近世の為政者・領主思想の見識を深めた。
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