研究概要 |
重複語幹動詞を中心に扱う本研究において,先ず,研究の準備段階として,これまでの研究成果を応用し,パーニニが言及する重複語幹動詞の中,完了語幹を精査した。その中からパーニニ文法とヴェーダ語との関係を考察する上で,特に重要な知見を,昨年9月ブカレストにおいて開催された第5回国際ヴェーダ学ワークショップ(The 5^<th> International Vedic Workshop)において発表した(招待発表)。 本研究が主に扱う意欲活用(Desiderative)に関するパーニニの規則約40を全て網羅し,Synopisを作成した。それを基にして,ヴェーダ語の歴史展開を考察する上で,特に重要な語形や形成法を取り扱った。また先行研究を利用しながら,パーニニが教える意欲語幹形成法をヴェーダ文献に見いだされる用例に照らして精査した。 調査の結果,注目される点はパーニニが教える意欲活用のperiphrastic perfectと使役語幹(Causative)は,ヴェーダ語の中でも新しい特徴であり,白ヤジュルヴェーダ系統のシャタパタブラーフマナに用例が見られるということである。従来,パーニニが教える言語は西北インドの保守的なそれであり,黒ヤジュルヴェーダの言語と近い関係にあるが,他方,シャタパタブラーフマナ(白ヤジュルヴェーダ)に代表される東部インドの言語についてはあまりパーニニには知られてはいなかった,という点が強調されてきた。しかしながら,これまで本研究者が指摘しきたことであるが,形態論・統語論的な特徴に関して言えば,シャタパタブラーフマナにみられる言語事実によく一致しており,東部の語法・語形が,相当数,パーニニが教える(そして当時使用されていた)言語に取り入られた可能性が高いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
意欲活用動詞に関するパーニニ文法規則の数は当初の見積もりよりも多い,約40であったが,Synopsisを作成し,概ね予定通り,ヴェーダ語形,パーニニの文法規則の調査が進行している。また調査結果に基づいて一定の成果をあげている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はパーニニが教える意欲語幹形成法を,インド伝統文法学の解釈や議論を精密に跡付けることを中心に行う。標準的なパーニニ文法学の注釈書『マハーバーシャ』,『カーシカーヴリッティ』などの意欲活用語幹に関する議論を読み解く。その際,インド伝統文法学の専門家である小川英世准教授(広島大学)の下を訪れ,情報交換及び資料収集を行う予定である。その後,本研究プロジェクトの調査結果を総括し,パーニニが教える言語,特にパーニニ文法の動詞組織を古インドアーリヤ語(サンスクリット)の歴史的展開の中に位置づける。本研究によって得られた成果は,随時,学会,研究会等で発表し,学術誌に投稿する。
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