今年度は,まず実際にヴェーダに現れる全ての意欲(desiderative)語幹を網羅し,それらをパーニニ文法の規則に則って形成されるものと規則から説明できない語幹形成と分類した。その際,語根部分がゼロ階梯か標準階梯か,そして結合母音が語尾の前につくかどうか,という観点から4つのタイプに分類し,それらのヴェーダ語における生産性を明らかにした。ヤジュルヴェーダ散文,ブラーフマナ文献から多様な形が現れるようになったことが明らかになった。 またCaC(Cは子音)の構造をとる語根が語幹を形成する際は,異化作用が働いた結果,語幹が短縮する(CiCC-sa- > CiC-sa-)ことが知られている。そうした語幹の中,パーニニが挙げているものを取扱い,ヴェーダの用例と照合し,また伝統文法学の見解を跡付けながら,どの語幹を念頭に置き,そして置いていなかったかを明らかにした。 さらにパーニニは意欲語幹が語彙化して独立の動詞となったものを挙げているが,それらについてヴェーダに現れる用例を精査し,語彙化していく過程を明らかにした。意欲語幹の語彙化はブラーフマナ文献からウパニシャッドの時代にかけての間にほぼ完了したものと推測される。 以上の調査からパーニニが標準的と考える言語はブラーフマナ文献の特徴と一致することが極めて多いということをより強く支持する結果を得た。 24年度の成果の中核部分は2012年12月に京都で行われたインド思想史学会において発表した。尚,発表内容は,同学会の学会誌 Journal of Indological Studies に投稿し公開する予定である。
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